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17世紀北海道超巨大地震の“再来”に備える手がかり 〜中小地震から見えた地下の応力〜(共同プレスリリース)
静岡県公立大学法人静岡県立大学グローバル地域センター自然災害研究部門(NaDiR, ナディール)特任教授 楠城一嘉、国立研究開発法人海洋研究開発機構(JAMSTEC, ジャムステック)海域地震火山部門・地震津波予測研究開発センター センター長(同大学グローバル地域センターNaDiR客員教授) 堀高峰らの研究グループは、日本列島の太平洋側で起きるマグニチュード9(M9)クラスの超巨大地震が、「いつ起きてもおかしくない完全なランダム現象」ではなく、地下にたまる応力の状態に応じて、ある程度特徴的な間隔で繰り返している可能性を示しました。
特に本研究では中小規模地震の統計解析により、
「2011年M9東北地方太平洋沖地震(以下、東北沖地震)の震源域では、いまも応力が比較的低い状態にあり、すぐに同規模の地震が繰り返す可能性は小さいこと」一方で、「北海道沖(十勝沖〜根室沖)の海溝沿いでは、17世紀の超巨大地震とそれに伴う津波の再来に備えるべき“要注意状態”が続いていること」を示しました。
この成果は2026年2月5日(日本時間)付で、英ネイチャー・ポートフォリオの学術誌「Communications Earth & Environment(コミュニケーションズ・アース・アンド・エンバイロンメント)」電子版に掲載されました。
以下に概要を示しますが、YouTube(https://youtu.be/sbtPaHFTlqw)でも解説します。
地震活動の特徴を示す「b値」から、地下にたまった応力の強さを評価
1.1 小さな地震が多く、大きな地震が少ないほどb値が高く、地下の応力は低いと解釈されます。
1.2 逆に、b値が低い場合は、地下で応力が高まっているサインと考えられます(リンク1, 2, 5)。東北沖では、2011年M9地震後も「b値が高い状態」が継続(図1a)
2.1 過去の一部研究が示した「応力が急速に元に戻り、M9がいつ起きてもおかしくない」という見解とは異なり、
2.2 東北沖の超巨大地震が再び起きるには、なお長い時間スケールでの応力蓄積が必要である可能性が高いことが分かりました。北海道沖では、「b値の低下」と、大地震の発生と関係する可能性がある「静穏化」、「空白域」、「スロー地震の活動」(図1b, 2, 3)、「強いプレート固着」が同時に進行
3.1 17世紀に起きたとされるM9クラスの超巨大地震の震源域と重なる海域で、応力がここ数年で再び高まっているサインを確認しました(図1)。
3.2 国の長期評価(再来間隔 約340〜380年)と照らし合わせると前回から約400年が経過していることから、北海道・東北太平洋沿岸(特に北海道・青森・岩手・宮城・福島)における地震・津波防災の重要性を改めて示す結果となりました。本研究は主に過去のデータに基づく長期評価を、現在観測可能なデータによって科学的に裏づけたものです。
本記事を読まれる皆様へ
M9超巨大地震を含めて地震の発生時期はランダムであるという見方に対して、本研究は、長期的な応力のたまり方を丁寧に追うことで、“準備状態”をある程度評価できる可能性を示したものです。これは、『今すぐ北海道でM9クラスの超巨大地震が起きる』という意味でも、『特定の年月日に超巨大地震が起きると予知する』ものでもありません。数十年〜数百年スケールの応力蓄積の状況を示し、どの海域が相対的に危険度の高い状態にあるかを評価したものであり、どの地域で長期的な備えをより強化すべきかに示唆を与えるものです。東北沖の地震・津波は心配しなくてよいという意味ではありません。M9クラスのような超巨大地震の“すぐの再来”の可能性は低そうだという結果ですが、一方で、M7〜8クラスの地震や津波のリスクは現在も存在します。その一例は、12月8日青森沖のM7.5地震です。この地震は本論文で注目する北海道沖ほどではないですが、中程度にb値が低い(地下の応力が中程度に高い)地域で起きました。この地震により発表された北海道・三陸沖後発地震注意情報に基づく防災対応の呼びかけは終了しましたが、同規模程度以上の地震が起きる可能性は、今回の地震の影響でより高まっていると考えられます。防災上は、東北沖においても、これまでどおり、あるいはそれ以上に揺れや津波への備えが重要です。自然災害は想定どおりに発生するとは限らず、むしろ想定を外れて起こることのほうが多いのが実際です。したがって、防災対策は常に最新の基礎的研究の成果を取り込んでいくことが重要です。また、こうした研究成果を住民の皆さんに正しく理解して頂くことが、究極の防災対策につながるという点も見逃せません。NaDiRは、それに資する研究開発を進めつつ(リンク1, 2, 4, 5)、防災啓発教育を実践する(リンク3)、日本でも稀有な組織であり、これまで多くの成果を積み上げてきました(リンク6)。南海トラフ地震に直面する静岡県にとって、NaDiRのような組織はなくてはならない存在であり、今後も静岡県民の皆さんとともに、防災研究および啓発教育を進めてまいります。
<論文タイトル>
Non-randomness of Japan megaquakes implied by stress recovery and accumulation
<著者>
楠城一嘉|静岡県公立大学法人静岡県立大学グローバル地域センターNaDiR特任教授堀高峰|国立研究開発法人海洋研究開発機構海域地震火山部門・地震津波予測研究開発センター・センター長 (同大学グローバル地域センターNaDiR客員教授)岩田大地|独立研究者<掲載学術誌>
Communications Earth & Environment
<ウェブ>
https://doi.org/10.1038/s43247-025-03075-6

図1. b値マップと時間変化
(a)2011年東北沖地震直前の地震活動(M≥2.8)に基づき計算したb値の空間分布を示す。星印は2011年東北沖地震と2003年十勝沖地震の震央(破壊開始点)を示す。オレンジ色のコンターラインは両地震時の滑り量を示す。挿入図は研究領域を示す。図中の1および2で示す領域内で起きた地震を用いて、(c)のb値の時間変化を計算した。(b)現在のb値の空間分布を示す。(c)左図は領域1におけるb値の時間変化(赤: M≥2.8、青: M≥2.5)を示す。灰色の縦線は東北沖地震と十勝沖地震の発生時刻を示す。灰色の帯はb値算出に用いた地震数が少なく、信頼性が低い期間を示す。右図は領域2におけるb値の時間変化を示す。

図2.地震活動の静穏化
上図: 黒曲線は北海道沖の地震(M≥5.7)について累積頻度を時間の関数でプロットしたもの。挿入図に示すポリゴン内で、1965-2025年に起きた地震を用いた。ETAS(イータス)と呼ばれる地震活動モデル(赤曲線)を用いて、1965-2008年の地震活動を学習し、それ以降を予測した。地震活動の特徴に変化が無ければ、赤(予測)と黒(観測)は概ね重なるが、2008年以降は黒曲線が赤曲線より下側にあり、地震活動が低調となり静穏化が起きていることを示す。静穏化は世界の大地震発生前にしばしば観測される現象であり、M9超巨大地震(図3b)の震源域となる可能性ある北海道沖でこうした静穏化が起きていることを示している。下図: 使用した地震のMと地震の起きた時間の関係を示す。

図3.スロー地震活動と空白域と17世紀北海道超巨大地震
(a)北海道沖のb値の低い地域を避けてスロー地震(超低周波地震、微動、繰り返し地震を含む群発地震イベント)が分布していることがわかる。先行研究では、2011年東北沖地震の大滑り域やM7~8クラスの大地震を避けてスロー地震が発生していることが示されており、本図でも2003年十勝沖地震の大滑り域を避けてスロー地震が起きていることから、b値の低い地域は大規模地震の大滑り域になり得る可能性を示唆する。(b)M8クラスの2003年十勝沖地震(オレンジ色)、1973年根室沖地震(ピンク色)の間の「空白域」でb値が低い。この空白域では、これらのM8クラス地震の前に別のM8クラスの1952年十勝沖地震(緑色)が発生しており、「地震が起きない地域」ではなく、「大地震をまだ起こしていないが、大きな力がかかっており、大地震が近づいている」と考えられる未破壊域と言える。また、17世紀に起きたとされるM9クラスの超巨大地震の震源域(黄色)と重なる海域でb値が低いこともわかる。国の長期評価により、17世紀北海道超巨大地震の再来可能性が指摘されている中で、b値の低下、と「静穏化」、「空白域」、「スロー地震の活動」(図1b, 2と本図)が進行中であり、そして測地学的研究にから明らかになった強いプレート固着が同時に進行していることは、大地震発生のサインを複数の観点から確認したことを意味する。
本件に関するお問合せ先
プレスリリース資料


