不名誉な法則を打ち破るべく、スイス人分析官は過去の大会を徹底的に精査した。その結果、チームはこれまでの流儀を貫かないという決断を下す──。
 発売中のNumber1136号に掲載の[歴史を変えたプロジェクト]2014 Germany 非情さで駆け上がった頂点 より内容を一部抜粋してお届けします。

ドイツが覆したW杯のジンクス

 かつてW杯にはあるジンクスが存在した。

 アメリカ大陸開催のW杯で、ヨーロッパ勢は優勝できない――。

 第1回の1930年ウルグアイ大会から第15回’94年アメリカ大会まで計7度アメリカ大陸でW杯が開催されたが、ヨーロッパ勢は一度も優勝できていなかった。

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 だが、2014年ブラジルW杯でついにそのジンクスが覆された。ヨアヒム・レーブ率いるドイツは準決勝でブラジルを7対1で破り、決勝でアルゼンチンを延長の末に退けて優勝を果たした。

 いかにしてドイツはW杯の歴史を変えたのだろう?

 すべての始まりは、ある分析官の慧眼だった。

「南米では自分たちのスタイルにこだわったら負ける」

 当時、レーブ監督にはアドバイザーがいた。13歳上のスイス人、ウルス・ジーゲンタラー主任分析官である。ジーゲンタラーはレーブがスイスサッカー協会の指導者ライセンス講座に通っていたときの教官で、師匠のような存在だ。情報収集のエキスパートで、その徹底ぶりは「対戦相手の朝食まで知っている」と言われるほどである。

 ジーゲンタラーはブラジルの地で頂点に立つために、’70年以降のW杯の準決勝と決勝をすべて見直した。その結果、ある結論に行き着いた。

 ジーゲンタラーは’14年W杯直前、tz紙に明かした。

「過去の大会を分析したところ、ヨーロッパ勢は南米の地でも自分を表現しようとしていた。まるでホームかのようにね。しかし最高気温44度になるような環境ではそれは不可能だ。自分たちのやり方が南米でも通用するという考えは幻想にすぎない」

 ようは「南米では自分たちのスタイルにこだわったら負ける」ということだ。

 レーブ自身も’13年にブラジル開催のコンフェデレーションズカップを視察し、同じ結論に達した。帰国後の会見でこう語った。

「フォルタレーザは夜になっても30度を超えていた。ホテルの冷房が壊れ、サウナのようだった。ブラジルW杯は100のディテールが勝負を分ける特殊な大会になる。暑さ、都市ごとの気温の変動、長距離移動に適応しなければ痛い目にあう」

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