科学技術の進歩は、往々にして「二律背反」の解消によってもたらされる。増え続けるエネルギー需要と、削減しなければならない放射性廃棄物。この二つの難題を同時に解決し得る画期的なテクノロジーが、フランスで新たなフェーズに突入した。

2026年1月現在、フランスの原子力スタートアップ企業であるStellariaは、同社が開発する次世代原子炉のプロトタイプ「Alvin」の建設に向けた正式な許認可申請を行った。これは、AI時代の電力需要を支え、かつ核のごみ問題を解決へ導く「第四世代原子炉」の実用化に向けた決定的な一歩である。

2030年の点火へ:概念から「規制プロセス」への移行

DAC提出が持つ決定的な意味

2025年12月19日、Stellariaはフランスの原子力安全規制当局に対し、基本原子力施設(INB: Basic Nuclear Installation)としての認可を求めるDAC(Demande d’Autorisation de Création:設置許可申請)を正式に提出した。

このニュースの重要性は、原子力開発における「フェーズの転換」にある。これまで概念設計やシミュレーションの段階にあったプロジェクトが、実際の建設と運用を見据えた「規制当局による審査段階(Regulatory Phase)」へ移行したことを意味するからだ。

StellariaのNicolas Breyton社長は、このマイルストーンについて次のように述べている。

「DACの提出により、Stellariaは概念段階を脱し、構造的な規制フェーズに入りました。これまでのチームとパートナーの作業が正当化されると同時に、当社は原子力事業者としての責任を完全に負うことになります」

膨大な「安全性の証明」

提出された申請書類は15の文書、合計1,000ページ以上に及ぶ。これには以下の詳細な解析が含まれており、同社の技術的成熟度を物語っている。

安全ケース: 施設の詳細記述、採用された安全原則、過酷事故(シビアアクシデント)を含む事故解析。

外部ハザード対策: 地震、洪水、航空機の衝突などの外部要因に対する耐性評価。

放射線防護: 労働者、一般公衆、環境への影響評価。

廃炉計画: 施設の寿命が尽きた際の解体・撤去条件。

フランスにおいて、高速中性子炉の分野でスタートアップ企業がこのような正式な認可申請を行うのは史上初の事例であり、SMR(小型モジュール炉)やAMR(先進モジュール炉)の開発に取り組むフランスのスタートアップ11社の中でも、Jimmy Energyに次ぐ2番目の快挙である。

「高速中性子」と「溶融塩」の融合

Stellariaが開発する炉は、「高速中性子溶融塩炉(Fast-Neutron Molten Salt Reactor)」と分類される。なぜこの方式が革新的であり、従来の軽水炉(PWR/BWR)と何が違うのだろうか?

1. 溶融塩炉(MSR)の基本原理

従来の原子炉は、固体のウラン燃料(ペレット)を使用し、水で冷却する。しかし、Stellariaの「Stellarium」炉では、燃料自体を塩化物などの塩に溶かし、「液体の燃料」として循環させる。

安全性: 液体燃料は常圧に近い低圧で運転できるため、高圧の水蒸気爆発のリスクが原理的に排除されている。

静音性と安定性: 液体であるため、過酷な条件下でもスムーズかつ静かに循環・動作する。

2. 「高速中性子」がもたらす錬金術

ここが最も重要なポイントである。一般的な溶融塩炉の多くは中性子を減速材で遅くする「熱中性子炉」だが、Stellariaは中性子を減速させない「高速中性子」を利用する。

高速で飛び交う中性子は、核分裂の確率こそ低くなるものの、「マイナーアクチニド(Minor Actinides)」と呼ばれる長寿命の放射性廃棄物を効率よく核分裂させ、短寿命の物質や安定した物質に変える能力を持つ。

廃棄物を燃料に: ウランやプルトニウムだけでなく、MOX燃料(混合酸化物燃料)や、従来の原子炉では「ゴミ」として扱われていたマイナーアクチニドを燃料として燃やすことができる。

廃棄物の減容: Stellariaは、自社の炉を「生成する廃棄物よりも多くの廃棄物を破壊(消滅処理)できる世界初の原子炉」と位置付けている。

3. 多重の安全障壁

Stellariaの設計は、わずか4立方メートルという非常にコンパクトな炉心でありながら、市場にある他の原子炉と比較しても「最も安全な原子炉」の一つと謳われている。

4つの封じ込め障壁: 放射性物質の外部漏洩を防ぐための多重バリア。

地下設置: 施設自体を地下に設置することで、外部からの物理的攻撃や自然災害に対する堅牢性を高めている。

受動的安全性: 万が一の事態でも、人の操作や外部電源なしに自然物理法則だけで炉が停止・冷却される仕組みを持つ。

プロトタイプ「Alvin」から商用炉「MegAlvin」へ

プロトタイプ「Alvin」のイメージ (Credit: Stellaria)

Stellariaのロードマップは非常に具体的かつ戦略的である。いきなり大規模な商用炉を作るのではなく、段階的なスケールアップを図っている。

実験炉「Alvin」(2030年稼働予定)

今回DACが提出されたのは、この「Alvin」である。

出力: 熱出力 約100 kW(キロワット)。

目的: コンセプトの最終実証。計算通りの核反応、熱挙動、安全性を実際のハードウェアで確認するための「テストプログラム」の始動。

場所: フランス国内(具体的な建設地はINB Alphaとして申請中)。

商用プロトタイプ「MegAlvin」

Alvinでの実証が完了した後に計画されているのが、電気出力10 MWe(メガワット)クラスの「MegAlvin」である。

特徴: 約20年間、燃料交換なしで連続運転が可能。

ターゲット: 都市の電力供給や産業利用、そして後述するデータセンターへの電力供給。

商用展開: 2035年以降の展開が見込まれている。

AIと原子力の共鳴:Equinixとの戦略的提携

なぜ今、原子力が再注目されているのか。その最大のドライバーは「AI(人工知能)」である。

AIの貪欲な電力需要

生成AIの学習や推論、高機能コンピューティング(HPC)には莫大な電力が必要となる。Googleの検索1回とChatGPTの応答1回では、消費電力に桁違いの差があると言われる。
世界の電力需要は、AIとデータセンターの影響で2027年までに4%増加すると予測されており、既存の送電網(グリッド)だけではこの需要を賄いきれないリスクが高まっている。太陽光や風力は天候に左右されるため、24時間365日稼働し続けるデータセンターの「ベースロード電源」としては不安定さが残る。

データセンター専用電源としてのStellarium

Stellariaは、世界的なデータセンターリーダーであるEquinixと、最初の電力プレオーダー(事前予約)契約を締結している。

500 MWの供給構想: 報道によると、StellariaとEquinixの協力関係は、将来的にはデータセンターインフラに対し、約500 MW(メガワット)規模のクリーンな原子力電力を供給することを目指している。これは単一の炉ではなく、モジュール式のStellariumユニット(各250 MWe規模の展開も視野)を複数配置することで達成されると推測される。

自律型データセンター: Equinixは、データセンターの敷地内または隣接地にStellariumユニットを配置することを目指している。これにより、送電網の制約を受けない自律的な電力確保が可能となる。

この提携は、原子力が単なる「国のインフラ」から、「ハイテク産業の心臓部」へと役割を進化させていることを象徴している。

フランスの原子力エコシステムとStellariaの出自

Stellariaが他の多くの原子力スタートアップと一線を画すのは、その「出自」にある。

CEAとSchneider ElectricのDNA

Stellariaは、フランス原子力・代替エネルギー庁(CEA)と、エネルギーマネジメントの世界的企業であるSchneider Electricからスピンアウトして設立された。

CEAの知見: フランスの原子力開発の中枢であり、高速炉に関する膨大な研究データとノウハウを持つ。

Schneider Electricの産業力: 複雑なプラント制御、電力システム、産業化へのプロセスに精通している。

この強力なバックグラウンドは、1000ページを超えるDACの作成能力や、規制当局との対話能力に直結しており、プロジェクトの実現可能性(Feasibility)を大きく高めている要因である。

資金調達と2025年の転換点

2025年はStellariaにとって「転換点」であったとブレイトン社長は語る。構造的な資金調達ランド(約2,300万ユーロ規模)の完了と、Equinixとの契約、そして年末のDAC提出。これらはすべて、2030年のAlvin稼働に向けた強固な土台となっている。

科学的意義と未来への展望

Stellariaの挑戦は、単に新しい発電所を作ることではない。それは、原子力の「あり方」を再定義する試みである。

環境負荷の低減: 核廃棄物を数万年の保管が必要な「負の遺産」から、エネルギーを生み出す「資源」へと変えるパラダイムシフト。

エネルギー安全保障: 化石燃料に依存せず、かつ天候にも左右されない超小型・高密度のエネルギー源の確立。

デジタル社会のバックボーン: AIという人類の新たな知性を支えるための、安定的かつクリーンな物理的基盤の提供。

プロトタイプ「Alvin」が2030年に初臨界を迎え、その理論通りに廃棄物を燃焼させながらエネルギーを生み出すことが実証されれば、それは物理学と工学の勝利であり、人類のエネルギー史における重要な分岐点となるだろう。フランスの地方当局に提出された1000ページの書類は、その未来への最初の一枚のチケットなのだ。

Sources