焦点:日中関係の行方占う衆院選、高市氏勝利なら中国は戦略変更も

写真は中国と日本の国旗。2022年7月撮影。REUTERS/Dado Ruvic

[東京/北京 30日 ロイター] – 2月8日投開票の衆議院選挙は物価高対策が最大の争点ながら、冷え込んだ日中関係の行方を占う上でも注目されている。強い政権基盤を背景に中国との関係を立て直した安倍晋三元首相のように、高市早苗首相が国民の十分な支持を得たと示すことができれば、圧力をかけ続けてきた中国は戦略変更を迫られる可能性があると日本の政府関係者や外交の専門家らは見る。

「このタイミングの解散総選挙はとてもプラスだ」。高市氏が記者会見で衆院解散を表明してから数日後の1月下旬、安全保障政策に携わる日本の政策関係者はロイターにこう語った。

念頭にあるのは膠着状態にある日中関係だ。このままでは改善の糸口さえつかめないままに両国の溝は深まり続けてしまう。同関係者は「中国は弱い政権だと『いじめ尽くしてやろう』『追い込めばもっと良い政権に代えられるかもしれない』と考えるが、強い政権なら『いじめる戦略じゃない方がいいかもしれない』と考える」と分析し、「高市氏が選挙に勝てば、中国にとってインセンティブになる」と期待を寄せた。

高市氏は首相就任からまもない昨年10月末、訪問先の韓国で中国の習近平国家主席と初めて会談した。高市氏は対中姿勢が厳しいタカ派として知られ、会談の成否に懸念する向きもあったが、「戦略的互恵関係」を確認するなど無難に終えたと専門家やメディアは評価した。

それが11月上旬に一転する。台湾有事を巡る高市氏の国会答弁に中国側が猛反発。自国民に日本への渡航自粛を呼びかけたり、日本に貸与していたパンダの返還を迫ったり、重要鉱物の希土類(レアアース)の輸出規制を発表したりするなど締め付けを段階的に強めた。あるメーカーの幹部は、レアアース不足は在庫が底をつく今春ごろから顕在化する恐れがあると指摘する。みずほリサーチ&テクノロジーズは、レアアースの輸入が1年停止すれば日本の国内総生産(GDP)を0.9%下押しすると試算する。

「中国はおそらく当初、高市政権を倒そうという発想だったと思う」と、防衛事務次官や内閣官房参与などを歴任した島田和久氏は言う。「少数与党で政権基盤が弱いと、中国は足元を見る。日本国内の世論の分断を狙ってくる。だから今回の選挙は非常に重要だ」と語る。

<予測困難な選挙>

日本初の女性宰相となった高市氏は、日中関係が悪化する中でも高い支持率を維持している。29日付の読売新聞と日本経済新聞の世論調査によると、個人的な人気を追い風に衆院選は自民党が単独過半数をうかがう情勢だ。

「レアアースの輸出規制までやったのに高市首相が勝つとすると、中国としては『この方法では日本の政権を痛めつけられない』となるだろう」と前出の政府関係者は話す。いくらプレッシャーをかけても日本国内の分断が進まないという証明となり、中国の戦略が意味をなさなくなるというわけだ。加えて、「圧力をかけていたはずの中国側にとって良くない経済データが出てくる。中国が世界に訴える『日本が右傾化した』という言説が国際社会で広がらない実感が出てくる。この条件が揃えば中国は日本と向き合わざるを得なくなる」とも語る。

とはいえ、現時点で中国が方針転換する兆候はない。政治アナリストらが「近年で最も予測困難な選挙」と評する今回の選挙で、高市氏率いる自民が勢いを保ったまま投開票を迎える保証はないからだ。衆院選で比較第1党を目指す「中道改革連合」は、主要政策として対中関係を盛り込み、「中国に対する懸念への毅然とした対応と、国益確保を両立させる中長期的視点に立った戦略的互恵関係の構築」を掲げている。

匿名で取材に応じた中国当局者は、衆院選に勝利すれば高市氏の政権基盤が一時的に強まると認めつつも、日本の国民はいずれ中国を刺激した外交的、経済的な代償を理解することになるとの見方を示した。中国外務省に対日政策の見通しについてコメントを求めたところ、「高市氏は日中関係の政治的基礎を大きく損なった」と述べた1月27日の報道官のコメントを引用した。

<安倍氏の影響>

高市氏が与党内でも予想外のタイミングで衆院を解散し、総選挙に打って出たのは、国政選挙で連勝して盤石な政権基盤を築いた安倍元首相の影響があると秘書官を務めた島田氏は見る。安倍氏の場合、2012年末の第2次政権発足前から日中関係は悪化していた。同年10月に当時の民主党政権が尖閣諸島(中国名:釣魚島)を国有化したのが主な原因だ。それでも安倍氏は13年7月の参院選で圧勝。同年末に靖国神社を参拝して対中関係は一層冷え込んだが、翌14年11月には習氏との初会談を実現した。

「安倍政権の時も最初は2年近く首脳会談ができなかった。その間も、その後も選挙に勝ち続け、非常に強固な体制を築いた。そうなると中国も安倍政権を相手にせざるを得なくなった」と島田氏は振り返る。

ユーラシア・グループの北東アジア担当上級アナリスト、ジェレミー・チャン氏は、自民が単独過半数(233)を確保できるかどうかが高市氏の勝利を測る指標だと指摘する。定数465の衆議院で現在の198議席から35議席を上積みする必要がある。

「実現すれば高市氏が今後数年間首相の座にとどまる可能性が高く、圧力をかける中国の戦略が裏目に出たというシグナルを中国に送ることができる」と、米国の外交官として日中両国に駐在したことがあるチャン氏は言う。「逆に、勝利が小幅にとどまれば、中国は日本に対する威圧を強める可能性が高い」

(鬼原民幸、John Geddie、Tim Kelly、Antoni Slodkowski 取材協力:金子かおり 編集:橋本浩、久保信博)

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鬼原民幸

2025年6月からロイターで記者をしています。それまでは朝日新聞で20年間、主に政治取材をしてきました。現在、マクロ経済の観点から日々の事象を読み解く「マクロスコープ」の取材チームに参加中。深い視点で読者のみなさまに有益な情報をお届けしながら、もちろんスクープも積極的に報じていきます。お互いをリスペクトするロイターの雰囲気が好き。趣味は子どもたち(男女の双子)と遊ぶことです。

John Geddie

John is the lead writer for Japan & Greater China, reporting on everything from elections to earthquakes. Previously based in Singapore and London, his work has received several journalism accolades, including a 2022 SOPA Award for Excellence in Reporting on the Environment.

Antoni Slodkowski

Antoni Slodkowski is Reuters Chief Politics & General News Correspondent for China, based in Beijing, where he leads coverage of Chinese politics, society, and its relations with global counterparts. He has won two Pulitzer Prizes with Reuters colleagues: in Investigative Reporting in 2025 for uncovering fentanyl supply chains, and in International Reporting in 2019 for exposing the persecution of Rohingya Muslims in Myanmar. Previously Japan Deputy Bureau Chief and Myanmar Bureau Chief at Reuters, Antoni also reported from Tokyo for the Financial Times and was a Knight-Wallace Fellow at the University of Michigan. He began his journalism career as a teenager, hosting a children’s TV show for Poland’s largest public broadcaster.