米国ではいま、誰もが「中国的」な気分になっているようだ。ソーシャルメディアでは、「自分はいま、人生のなかで『かなり中国的な時期(very Chinese time)』の真っただ中にいる」と宣言しながら点心をほおばったり、話題のアディダスの中国風ジャケットを羽織ったりと、いかにも“中国的”な行動を披露する人々が続出している。こうした風潮はこの数週間で爆発的に広がり、コメディアンのジミー・O・ヤンやインフルエンサーのハサン・パイカーをはじめ、この流れに乗る有名人も後を絶たない。いまや、行動がどんどん「中国化」する様子を指す「チャイナマキシング(Chinamaxxing)」や、肯定や祝福の意味で使われる「アナタ、明日には中国人になってるよ(u will turn Chinese tomorrow)」といった派生表現も生まれているほどだ。
時代の空気を数値化することは難しいが、常にネットの世界をウォッチしている『WIRED』のわたしたちから見ると、中国をめぐる空気感はこの1年で明らかに変化している。関税や輸出規制の問題が山積し、反中国的な言説が飛び交う状況とは裏腹に、若い世代を中心とする多くの米国人が、中国の技術やブランド、都市に魅了され、かつてない勢いで中国製品の購入に精を出している。考えうる限り残された行動といえば、文字通り「中国人になる」ことなのだ。
「みんな、新しく手に入れた“中国風アイデンティティ”を受け入れきれていないようだね」と、インフルエンサーのチャオ・バンが冗談まじりに語るTikTok動画には、34万を超える「いいね」がついている。「ちょっと聞くけど、この動画は中国のアプリで見てるんじゃない? そのスマホもおそらく中国製だよね。中国製の服を着て、中国製のマスコット人形を集めてるんじゃない?」
何もかもが中国になる
欧米の人々が中国について語る場合によくあることだが、こうしたミームは中国という国の日常をそのまま伝えようとしているわけではない。むしろ、これらは「米国社会の好ましくない側面すべて、あるいはアメリカンドリームの衰退」を投影する役割を果たしているのだと、ハーバード大学で中国の科学技術を研究する博士課程研究員のティアンユ・ファンは言う。
米国の社会基盤が崩れかけ、以前には考えられなかったような国家による暴力が常態化しているいま、人々の目には対照的に中国が少しはましな国のように見え始めている。「米国の人々が『中国の時代が来た』と言うとき、そこには皮肉めいた敗北感がにじんでいます」とファンは言う。
トランプ政権が自分たちの思惑通りに米国政府を再編し、長く保たれてきた民主主義の規範を打ち砕くなか、人々は新たなロールモデルを切望するようになった。そして、まずまずの模範像を中国に見いだしたのだ。そびえ立つ高層ビル群や大規模な高速鉄道網を擁する中国は、多くの米国人にとって自国の現状とはまったく異なるものへの、ひたむきで切実な願望の象徴なのだ。
トランプ政権に批判的な人々は、しばしば中国による巨額のクリーンエネルギー投資を引き合いに出して米国の気候対策の失敗を印象づけようとし、中国の都市インフラの発展ぶりと比較して米国の住宅不足を非難する。こうした論調は中国の長所を強調する一方で、その発展の裏にある醜悪な部分を脇に追いやりがちだ。しかし、こうした言葉選びこそが批判派の狙いなのだ。いまや中国は、米国人にとって実在する場所というよりひとつの抽象概念となり、自国の短所を暴き出す手段として利用されている。これについて、ライターのミン・トランは最近のSubstackへの投稿でこう語っている。「斜陽を迎えたアメリカ帝国の住人であるわたしたちにとって、オリエンタリズムとは上から見下ろすものではなく、憧れをもって見上げるものなのです」
中国のことが気になって仕方がない人がこれほど多い理由のひとつは、この国がもはや避けて通れぬ存在になっているからだ。世界のどこに移り住んでも、たちまち中国産の品々に囲まれてしまうだろう。『WIRED』はこの話題を徹底して取り上げてきた。あなたの携帯電話もノートPCもロボット掃除機も中国製だし、お気に入りのAIスロップ・ジョークも中国製だ。世界中で大人気のラブブも中国生まれなら、グローバルサウス全域に電力を供給する太陽光パネルも、2025年にテスラを抜いて世界最高売り上げを記録した電気自動車(EV)ブランドも中国生まれだ。さらには同年、最も多くの話題を集めたオープンソースAIも中国製なのだ(この記事の引用元であるニュースレターのタイトルが「Made in China」である理由も、そこにある)。
