太陽系の惑星「天王星」と「海王星」は、その主成分が氷(後述)であると考えられており、「巨大氷惑星」に分類されています。太陽系の外に目を向けると、両惑星と似た巨大氷惑星は多数あると考えられています。しかし、両惑星の性質は、観測データの不足から、正確なところが分かっていません。
【▲ 図1: 天王星と海王星は巨大氷惑星であると言われてきましたが(左側)、今回の研究で巨大岩石惑星である可能性も示されました(右側)。(Credit: Keck Institute for Space Studies & Chuck Carter)】
チューリッヒ大学のLuca Morf氏とRavit Helled氏の研究チームは、仮定が最小限の惑星モデルを組んで両惑星の内部構造の計算を行ったところ、従来の巨大氷惑星であるという結論の他に、質量の50%以上が岩石である「巨大岩石惑星(Rock Giant)」という結論も得られることを示しました。
今回の研究結果は、従来の惑星モデルの問題点を指摘し、探査機による追加の観測データの必要性を示しています。
天王星と海王星の分類「巨大氷惑星」とは?
太陽系を公転する8個の惑星は、主成分となる物質に応じて「岩石惑星」「巨大氷惑星」「巨大ガス惑星」の3種類に分類されます。ここで出てくる「岩石」「氷」「ガス」は惑星科学用語であり、日常的なイメージとは異なる意味を持ちますので、まずはそこを振り返りましょう。

【▲ 図2: 惑星科学における岩石・氷・ガスの意味と惑星の分類。(Credit: 水星: NASA, Johns Hopkins University Applied Physics Laboratory & Carnegie Institution of Washington (編集: Papa Lima Whiskey) / 金星: JAXA, ISAS, DARTS & Kevin M. Gill / 地球: NASA / 火星: CU, LASP EMM, EXI ITF & Kevin M. Gill / 木星: NASA & STSCI (S.T.A.R.S) / 土星: NASA, JPL & Space Science Institute / 天王星: NASA (編集: Patrick G J Irwin) / 海王星: NASA (編集: Patrick G J Irwin) / 作成: 彩恵りり)】
惑星科学における岩石・氷・ガスは「どれくらいの温度で気化するか」という揮発性の観点から分類されます。岩石はかなりの高温でも固体を維持する難揮発性物質であり、金属も岩石の中に含まれます。その対極として存在するのがガスであり、惑星科学の分野では水素とヘリウムのみがガスと呼ばれます。他の揮発性物質とは異なり、水素とヘリウムは少しでも熱源があれば気化してしまうためです。
そして、岩石とガスの間に位置するのが氷です。普通は水の固体を指す言葉ですが、惑星科学ではアンモニア、メタン、二酸化炭素など、-170℃(100K)付近の温度では固体となり、それより高い温度では気体になりやすい揮発性物質のことをまとめて指す用語として使われます。このため惑星科学の分野では、語弊を防ぐために「水の氷(water ice)」という用語が使われることもあります。
上記説明を踏まえると、「巨大氷惑星」とは「氷を主成分とする(巨大な)惑星」ということが分かると思います。太陽系では「天王星」と「海王星」が巨大氷惑星に分類されます。
天王星と海王星は当初、木星や土星と同じく(巨大)ガス惑星に分類されていました。しかし、望遠鏡の性能改善、探査機の接近観測、惑星の形成過程の理論研究、高圧下での物質の振る舞いの理解などから、天王星や海王星はガスを主成分としていると考えるのはムリがあることが分かってきました。こうした中で、最も矛盾の少ない惑星モデルとして考え出されたのが、氷を主成分とする巨大氷惑星という分類です。
巨大岩石惑星の可能性もある?
しかし、チューリッヒ大学のLuca Morf氏とRavit Helled氏の研究チームは、この考えに疑問を投げかける惑星モデルを含む研究結果を発表しました。
両氏はまず、従来の惑星モデルが、数多くの仮定に基づいて組まれている点を指摘しています。これらの仮定は、物理モデルを組む人が事前に設定するものであり、その仮定が妥当かどうかについては個別に検証しないといけません。そして、仮定の多い物理モデルは、ある程度極端な結果を出してしまうという傾向・性質があります。
そこで両氏は、最小限の仮定でモデルを構築することから始めました。まずはモデル惑星を用意し、その内部の物質密度をランダムに設定します。密度が分かると重力場が計算できるため、観測データと照合します。密度の仮定がランダムである場合、大抵は実際の観測データと大きなズレが生じるため、実際の密度や重力場とのズレが少ない物質組成へと少しずつ修正します。
今回の計算では、水素、ヘリウム、水、岩石、鉄の5種類の物質でモデルを構築しました。こうすることで、最小限の仮定で内部構成を算出し、惑星内部の組成、密度、温度、圧力を推定することができます。

【▲ 図3: 天王星のモデル(U1~U4)と海王星のモデル(N1~N4)それぞれで導かれた成分の割合。半分以上を岩石が占めている巨大岩石惑星に相当する結果も導かれています。(Credit: Luca Morf & Ravit Helled / 日本語訳は筆者(彩恵りり)による)】
研究チームは、天王星と海王星それぞれについて4つずつのモデルを導きましたが、その結果は非常に異なるものでした。従来の巨大氷惑星の見方と一致する、水の割合が7~8割に達するモデルも得られた一方で、岩石の割合が5~6割に対して水が2~3割という、明らかに氷よりも岩石の方が多いというモデルも得られました。これは、両惑星が巨大氷惑星ではなく「巨大岩石惑星」であっても、従来の観測結果と矛盾しないということを示しています。
また、惑星内部の対流状況にも大きな違いがみられました。今回のモデル計算では、対流している層と安定している層が細かく交互に積み重なっている結果もあれば、ほぼ全体が対流している結果も得られました。これは巨大氷惑星・巨大岩石惑星のどちらにも現れており、安定した層の割合が大きい巨大氷惑星のモデルもあれば、ほぼ全体が対流している巨大岩石惑星のモデルもありました。このような内部のダイナミクスは、横倒しな上に極が複数ある、天王星と海王星の複雑怪奇な磁場構造の発生源の特定にも影響を与えるでしょう。
天王星と海王星の新たな探査を促す研究
注意しないといけないのは、両氏による今回の結果は、天王星と海王星の内部構造について「新しい説を提唱した」というよりも「再検討を促している」という内容であるということです。
両氏は論文の中で、「天王星と海王星を巨大氷惑星と呼ぶのは、確固とした物理的な分類というよりも、むしろ歴史的な産物である可能性が高い」と指摘していますが、これは仮定を最小限にして研究すると、巨大氷惑星である可能性自体が否定されるかもしれないという結果を踏まえています。
とはいえ今回の研究だけでは、天王星や海王星の分類を巨大氷惑星から巨大岩石惑星に再分類するには不十分です。今回導かれた結果では、両惑星が従来の巨大氷惑星のままである可能性も否定されていないからです。
また、今回のモデルで仮定された物質構成は比較的単純であり、たとえば実際の天王星や海王星の大気で観測されているアンモニアやメタンは考慮されていません。また、物質が高い圧力でどのように振る舞うのかについても、まだ多くの謎が残されています。
これらの背景を考慮すると、天王星や海王星が巨大岩石惑星であるという今回の主張は、今後の研究で覆される余地が十分にあります。ただ裏を返せば、今のところ両惑星の分類は、巨大氷惑星と巨大岩石惑星の両方がありうるままであることになります。
惑星の主成分が氷なのか岩石なのかは、惑星がどこで誕生・成長したのか、惑星の元となる原始惑星系円盤の組成はどうなのか、という解釈に影響を与えます。
また、太陽以外の恒星を公転する「太陽系外惑星」には、天王星や海王星と似た大きさの惑星が多数見つかっています。天王星や海王星の内部を正確に知ることは、太陽系以外の惑星の性質や誕生に関する研究にも影響を及ぼします。
ただし、現在の観測データでは、これ以上の “答え合わせ” をするのは難しいかもしれません。両氏は新たな天王星・海王星探査の実施の必要性を訴えています。
ひとことコメント
天王星や海王星の正確な描写は、太陽系外惑星を正確に見る上でも重要なので、今後の研究が欠かせないよ!(筆者)
文/彩恵りり 編集/sorae編集部
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