今から40年前の1986年1月24日、NASA(アメリカ航空宇宙局)の惑星探査機「Voyager 2(ボイジャー2号)」が天王星のフライバイ(接近通過)を実施しました。

1977年の打ち上げから8年以上におよぶ長い旅路を経て到達したのは、太陽から約20天文単位(=約30億km)も離れた、暗く寒い場所。

「横倒し」の状態で自転する天王星を間近で観測した、ただ1つの探査機。そんなボイジャー2号の天王星フライバイを振り返ります。

惑星を次々と訪れる「グランドツアー」Voyager 1(ボイジャー1号、白)とVoyager 2(ボイジャー2号、オレンジ)の飛行経路を示した図(Credit: NASA/JPL-Caltech)【▲ Voyager 1(ボイジャー1号、白)とVoyager 2(ボイジャー2号、オレンジ)の飛行経路を示した図(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

ボイジャー2号と同型機「Voyager 1(ボイジャー1号)」による複数の惑星の探査ミッションは、「Grand Tour(グランドツアー)」と呼ばれています。当初は木星・土星・天王星・海王星・冥王星を4機の探査機で観測する構想でしたが、予算上の理由で中止され、代わりに2機の探査機による木星と土星の探査ミッションが計画されました。

1970年代の木星以遠の惑星は、およそ176年ごとに1度という稀な配置になっていました。1つの探査機がスイングバイ(太陽を公転する惑星などの重力を利用して軌道を変更する方法)を繰り返して軌道を変更することで、複数の惑星を1つのミッションで次々に観測できる好機だったのです。

そこで、最初の探査機が観測に成功した場合、次の探査機は天王星と海王星へ向かう軌道へ誘導することになりました。その「次の探査機」こそが、ボイジャー2号なのです。

NASAのJPL(ジェット推進研究所)で打ち上げ準備中の惑星探査機Voyager 2(ボイジャー2号)。1977年3月23日撮影(Credit: NASA/JPL-Caltech)NASAのJPL(ジェット推進研究所)で打ち上げ準備中の惑星探査機Voyager 2(ボイジャー2号)。1977年3月23日撮影(Credit: NASA/JPL-Caltech)【▲ NASAのJPL(ジェット推進研究所)で打ち上げ準備中の惑星探査機Voyager 2(ボイジャー2号)。1977年3月23日撮影(Credit: NASA/JPL-Caltech)】「的」を射抜くように困難だったフライバイ

NASAによると、ボイジャー2号の天王星フライバイは、それまでの木星や土星とは比較にならないほど過酷な挑戦でした。

天王星の自転軸は公転軌道面に対して約98度も傾いていて、言ってみれば「横倒し」の状態で太陽を公転しています。そのため、天王星の北極と南極では、昼と夜がそれぞれ42年も続きます。

横倒しなのは天王星の本体だけではありません。天王星の環や衛星の公転軌道面もまた、横倒しになっています。ボイジャー2号の飛行経路は、中心の天王星を同心円状に囲む環や衛星が描き出した「的」を正面から貫くような、非常にタイトなものとなったのです。

Voyager 2(ボイジャー2号)の天王星最接近時の飛行経路を示した図(Credit: NASA)Voyager 2(ボイジャー2号)の天王星最接近時の飛行経路を示した図(Credit: NASA)【▲ Voyager 2(ボイジャー2号)の天王星最接近時の飛行経路を示した図(Credit: NASA)】

それに、天王星付近では木星や土星のフライバイ時よりもさらに暗い環境での撮影を強いられます。エンジニアたちは撮像技術を改良し、土星フライバイ時の25%という非常に低い光量条件の下でも観測を可能にしました。

また、スラスターを精密に制御してカメラを追尾させる技術を駆使することで、機体のブレを抑制し、15秒という長い露出時間でも鮮明な画像を取得することに成功しました。

大きく傾いた磁場や新たな衛星の発見

ボイジャー2号は1985年11月4日から天王星の長距離観測を開始。そして世界時1986年1月24日17時59分(日本時間翌25日2時59分)、ボイジャー2号は天王星の雲頂から約8万2000km(5万640マイル)まで最接近しつつ、約5時間半にわたる精密な観測を実施しました。

一連の観測を通じて、天王星の磁場が自転軸に対して60度近く傾いている上に中心からずれていること、大気中で時速約720kmに達する強風が吹いていること、雲頂から約800km下に高温・高圧の海が存在する可能性があることなど、知られざる天王星の特徴を示すデータがもたらされました。

また、ボイジャー2号は天王星の衛星も観測。約2万9000kmまで接近したMiranda(ミランダ)など各衛星の特徴的な地形が捉えられたことで、衛星の地質活動が予想以上に活発である可能性が示されました。さらに、このフライバイではPuck(パック)をはじめとする天王星の新たな衛星が10個、新たな環が2本発見されています。

Voyager 2(ボイジャー2号)が撮影した天王星(Credit: NASA/JPL-Caltech)Voyager 2(ボイジャー2号)が撮影した天王星(Credit: NASA/JPL-Caltech)【▲ Voyager 2(ボイジャー2号)が撮影した天王星(Credit: NASA/JPL-Caltech)】Voyager 2(ボイジャー2号)が撮影した天王星の環(Credit: NASA/JPL)Voyager 2(ボイジャー2号)が撮影した天王星の環(Credit: NASA/JPL)【▲ Voyager 2(ボイジャー2号)が撮影した天王星の環(Credit: NASA/JPL)】Voyager 2(ボイジャー2号)が撮影した天王星の衛星Miranda(ミランダ)(Credit: NASA/JPL/USGS)Voyager 2(ボイジャー2号)が撮影した天王星の衛星Miranda(ミランダ)(Credit: NASA/JPL/USGS)【▲ Voyager 2(ボイジャー2号)が撮影した天王星の衛星Miranda(ミランダ)(Credit: NASA/JPL/USGS)】Voyager 2(ボイジャー2号)が撮影した天王星の衛星Ariel(アリエル)(Credit: NASA/JPL)Voyager 2(ボイジャー2号)が撮影した天王星の衛星Ariel(アリエル)(Credit: NASA/JPL)【▲ Voyager 2(ボイジャー2号)が撮影した天王星の衛星Ariel(アリエル)(Credit: NASA/JPL)】Voyager 2(ボイジャー2号)が撮影した天王星の衛星Puck(パック)(Credit: NASA/JPL)Voyager 2(ボイジャー2号)が撮影した天王星の衛星Puck(パック)(Credit: NASA/JPL)【▲ Voyager 2(ボイジャー2号)が撮影した天王星の衛星Puck(パック)(Credit: NASA/JPL)】Voyager 2(ボイジャー2号)が撮影した三日月状の天王星(Credit: NASA/JPL/USGS)Voyager 2(ボイジャー2号)が撮影した三日月状の天王星(Credit: NASA/JPL/USGS)【▲ Voyager 2(ボイジャー2号)が撮影した三日月状の天王星(Credit: NASA/JPL/USGS)】40年後の今も再解析が行われる貴重なデータ

天王星に唯一接近したボイジャー2号がもたらした観測データは、40年が経った現在でも様々な研究で役立てられています。

2020年にはボイジャー2号の磁力計のデータをもとに、プラズモイド(磁場構造をともなうプラズマの塊)が天王星の大気の一部を宇宙空間へと運び去っている可能性を示す研究成果が発表されました。

また2024年には、ボイジャー2号が最接近した当時の天王星は宇宙天気(太陽活動にともなう宇宙環境の変動)の影響を受けており、太陽風によって磁気圏が大幅に圧縮された稀な状況だった可能性を示す研究成果も発表されています。

深宇宙を飛行する惑星探査機Voyager(ボイジャー)のCGイメージ(Credit: NASA/JPL-Caltech)深宇宙を飛行する惑星探査機Voyager(ボイジャー)のCGイメージ(Credit: NASA/JPL-Caltech)【▲ 深宇宙を飛行する惑星探査機Voyager(ボイジャー)のCGイメージ(Credit: NASA/JPL-Caltech)】

打ち上げから2026年で49年目となるボイジャー1号とボイジャー2号は、ヘリオポーズ(太陽圏の境界)を通過して星間空間に到達し、今も貴重なデータを送り続けています。

ただ、電源として搭載されているRTG(放射性同位体熱電気転換器)の出力は低下し続けており、ミッションを継続するために科学機器の一部をオフにしなければならないほど電力が不足しています。

問題は電力だけではありません。打ち上げから半世紀が経つ探査機ではスラスターの劣化や、送信されたデータに一時的な異常が生じるといったトラブルも度々生じています。

厳しい状態ですが、NASAは2030年代まで少なくとも1つの科学装置を稼働させられる電力を確保したいと考えています。2機のボイジャーによるミッションは、もうしばらく続くことになりそうです。

 

文/ソラノサキ 編集/sorae編集部

関連記事参考文献・出典