米国通信委員会(FCC)が「Starlink」衛星7500基の追加配備を承認した。通信容量とサービスの拡大に期待が高まる一方、その代償を危惧する声はやまない──。

 米連邦通信委員会(FCC)は先日、SpaceXの衛星インターネット「Starlink」に対し、衛星網のさらなる拡張を認可した。これにより、より多くの人が高速なネット接続の恩恵を受けることになる。

 だが、取材に応じた科学者たちは警鐘を鳴らす。未知の領域ともいえる規模で軌道上に7500基もの衛星を追加投入することは、地球の大気への悪影響を含め、取り返しのつかない結果を招きかねないからだ。

 トランプ政権下のFCCがSpaceXを擁護してきた経緯を見れば、承認自体は既定路線だった。もっとも、認可された数は同社が当初要求していた数の半分にとどまる。

 「『好きなだけ打ち上げていい』とならなかった点は評価できる」。衛星打ち上げを追跡する天体物理学者、ジョナサン・マクダウェル氏はそう語る。「FCCは少なくとも慎重に進めようとしている。だが、メガコンステレーション(巨大衛星群)が環境に与える負荷への懸念が消えたわけではない」

 今回の決定により、軌道上のStarlink衛星は2031年までに約1万5,000基へと倍増する。これに伴い、過密化する成層圏での衝突リスクや、社会インフラの衛星通信への過度な依存といった、科学者たちが長年指摘してきた懸念が再燃している。

 「これはほんの序章に過ぎない」とマクダウェル氏は警告する。「彼らはさらなる追加を求めるだろうし、中国も大量に打ち上げてくる。他国や企業も追随し、いずれ軌道上の衛星は10万基の大台を超えるはずだ」

 現在、NASAや欧州宇宙機関(ESA)などの監視網が捉えている宇宙物体は約4万個あるが、未確認の物体はその比ではない。「壊滅的な被害」をもたらし得る物体は120万個以上と推定される。

 「問題は追跡可能な大型物体ではない。常に脅威となるのは、監視網にかからない10cm以下の微小物体だ」。アリゾナ大学のヴィシュヌ・レディ教授(惑星科学)はCNETに対しそう指摘した。

慎重な姿勢も見せる米当局

 FCCのブレンダン・カー委員長は声明で、Starlinkの増認を「次世代サービスを実現するゲームチェンジャー」と称賛。「トランプ大統領は米国の技術的リーダーシップを取り戻しつつある」とし、今回の決定がSpaceXにかつてない能力を提供し、競争を促進すると強調した。

 だが、実際の命令書に記された文言は慎重だ。「SpaceXは計2万9988基の構成を求めているが、我々はここで段階的な措置をとる」と記されている。 FCCはこの命令により、サービス品質の劇的な改善と、ダウンロード・アップロード双方の高速化が実現すると予測する。

 また、FCCは衛星の軌道高度を下げることも許可した。これにより、長年の課題だった遅延の改善が見込まれる一方、太陽嵐の影響を受けやすくなるリスクも浮上する。

過密化する軌道と衝突リスク

 衛星が飛び交う状況で最も恐れられるのが「ケスラーシンドローム」だ。宇宙ゴミ(デブリ)同士の衝突が連鎖反応を起こし、最悪の場合、地球軌道がデブリで埋め尽くされて衛星運用が不可能になる。

 SpaceXは、衝突確率が「1000万分の3」に達した時点で回避機動を行うとしている。これは2025年7月の報告書で示された新基準で、以前の「100万分の1」から大幅に厳格化された。

 しかし高い閾値を設けてもなお、2025年5月までの半年間でStarlink衛星が行った回避機動は14万4404回に達した。前の半年間と比較して約3倍の増加だ。 計算上、106秒に1回の頻度で回避が行われていることになる。しかもこれはStarlink単体の数字であり、他に約5000ある稼働中衛星の機動回数は公表されていない。

 頻繁な回避は衝突を防ぐ反面、他事業者にとっては衛星位置の予測を困難にする。「道路上の全員がぶつからないように動き回っていれば、いつか必ず事故は起きる」と、レディ氏は以前のインタビューで語っている。

 ある最近の論文(査読前)は、この状況を「軌道上のトランプタワー(砂上の楼閣)」と表現した。回避機動や状況認識が失われた場合、わずか5.5日で壊滅的な衝突が発生すると試算されている。Starlink打ち上げ前の2018年時点では、この猶予期間は164日だった。

  「もし太陽嵐などで衛星の制御を失えば、事態は悲惨なものになる」とレディ氏は言う。昨年12月のStarlink衛星爆発や、2024年の中国ロケット本体の分解といった事象が起きるたび、天秤は「破滅のシナリオ」へと傾いていく。

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大気圏への見えない負荷

 Starlink衛星の寿命は約5年だ。運用終了後は「デオービット」(軌道離脱)される。聞こえはいいが、要するに大気圏で焼き捨てるということだ。最初の打ち上げは2019年であり、環境負荷が大規模に可視化されるのはこれからである。「再突入時の化学反応や大気への影響を、我々はまだ十分に理解していない」とマクダウェル氏は言う。

 初期データは不穏だ。NASAが出資した2024年の研究(Geophysical Research Letters掲載)によると、約250kgの衛星再突入時に約30kgの酸化アルミニウム・ナノ粒子が放出される。この量は2016年から2022年の間に8倍に急増した。さらに、今回承認された第2世代Starlink衛星は約816kgと大型化している。

 論文著者のジョセフ・ワン氏は当時、「これは主に将来打ち上げられる大量の衛星に関する懸念だ」とし、酸化アルミニウム・ナノ粒子が自然レベルを640%以上上回るとの予測を示した。

 米海洋大気庁(NOAA)の2023年の調査でも、成層圏の粒子デブリの約10%からロケットや衛星由来の金属痕跡が見つかった。低軌道衛星の増加に伴い、この割合は将来的に50%以上に達すると推定される。 具体的な影響は議論の最中だが、衛星の激増とデオービットによって成層圏の組成が変質することは疑いようがない。

低軌道化で高まる太陽嵐の脅威

 今回の承認で見過ごされがちなのが、低軌道衛星が太陽嵐によって機能不全に陥るリスクだ。ペンシルベニア州立大学のサシャ・マインラス教授(通信学)はそう指摘する。

 SpaceX幹部マイケル・ニコルズ氏のXへの投稿(1月1日)によれば、2026年中にStarlinkは4400基の高度を地表約550kmから約480kmへ下げる計画だ。さらにFCCの新命令では、約340kmまで下げることが許可されている。

 「高度を下げ続けていること自体が懸念だ」とマインラス氏は言う。「性能データ向上という名目だろうが、その高度が空いているのはリスクが高いからだ」

 カリフォルニア大学アーバイン校の研究チームによると、太陽嵐は大気抵抗を増大させ、Starlink衛星の自律的な高度調整を誘発する。近隣衛星も連動するため、位置が安定するまで数日を要することもある。

 「通常運用に最適化されたアルゴリズムが軌道修正の連鎖を引き起こし、意図せず嵐の影響を増幅させる恐れがある」と研究チームは警告する。 重要なサービスを衛星に依存すれば、太陽嵐の影響は極めて深刻になり得るとマインラス氏は言う。「電柱のインフラが暴風対策を要するのと同じ理屈だ。太陽嵐は不可避だが、申請書類を見る限りこの問題への対処はなされていない」

Starlinkだけの問題ではない

 1万5000基もの新衛星追加は、現在の稼働中衛星総数を上回る規模だ。しかし、宇宙で活動しているのはStarlinkだけではない。

 「もう一つの重大な動きは、中国が国際電気通信連合(ITU)に20万基の衛星を申請したことだ」とマクダウェル氏は言う。 一部の観測筋は、中国政府が実際にこの数を実現できるか懐疑的であり、実行可能な計画というより「場所取り」のような申請だと見ている。

 ITUの規則では、中国は最初の打ち上げまで7年、コンステレーション完成までさらに7年の猶予がある。「SpaceXよりも、あらゆる面で条件の悪い中国の衛星群の方がよほど厄介だ」とマクダウェル氏は話す。

 米宇宙軍によると、中国は現在1300基以上の衛星を軌道に乗せている。Amazonの「Project Leo(旧Project Kuiper)」も、計画中の3236基のうち約200基を打ち上げ済みだ。

接続環境は劇的に改善する

 地方部においてStarlinkが優位なのは確かだが、FCCのブロードバンド基準(下り100Mbps/上り20Mbps)を一貫して満たしているわけではない。 遅延に関しても、Ooklaの最新データでは中央値45ミリ秒と、米平均の約4倍のラグがある(注:OoklaはCNETの親会社Ziff Davisの所有)。 衛星高度を下げることで遅延を短縮するというStarlinkの主張には理がある。

 また今回の承認は、もう一つの壁である「容量」の問題にも対処するものだ。ペンシルベニア州立大学「X-Lab」の分析によると、Starlink衛星がFCCの最低基準を維持して収容できるのは、1平方マイルあたりわずか6.66世帯だという。

 「高度を下げることで遅延を減らし、収容能力を増やそうとしている」とマインラス氏は分析する。「行間を読めば、『深刻な容量制限があり、解決策を模索している』という事実上の自白だ」

 過密化する空への懸念は深刻だが、高速通信の恩恵も同様だ。FCCなどはブロードバンドアクセスを健康の「スーパー決定要因」と呼び、その重要性を強調する。 実際、筆者が取材した地方在住者の多くにとって、Starlinkは劇的な変化をもたらすものだった。「アンテナをつなぐだけで、2分後には全世界が手のひらに戻ってくる」。アラスカ州の写真家、イーベン・ホプソン氏はそう語った。

 Starlinkが数百万人の人生を変えているのは事実だ。だが、その衛星が数百km彼方の宇宙にあるからといって、地上の我々が無関係でいられる保証はどこにもない。

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この記事は海外Ziff Davis発の記事を4Xが日本向けに編集したものです。