イメージ画像Andrew Thomas / REUTERS

今週も、早稲田大学ビジネススクールの入山章栄先生が経営理論を思考の軸にしてイシューを語ります。参考にするのは先生の著書『世界標準の経営理論』。ただし、本連載はこの本がなくても平易に読み通せます。

2026年の年始にアメリカが南米ベネズエラに侵攻し、世界情勢が大きく動きました。日本ではアメリカの国際法違反を指摘する声もありますが、この事態をどんな視点を持って見ていくといいでしょうか。入山先生は「そもそも国際法は守るべきなのか、という根本から考えると、日本が今後取るべきスタンスが見えてくる」と解説します。

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ベネズエラ侵攻に対するパラグアイ人の意外な反応小倉小倉

年明け1月3日、アメリカが南米ベネズエラの首都に侵攻し、ニコラス・マドゥロ大統領とその妻を拘束し、ニューヨークに連行しました。表向きの理由として「石油利権」や「麻薬流入対策」などと報道されていますが、この時代の変わり目となるニュースにさまざまな憶測が飛び交っています。

今日はこの件が国際政治において何を示しているか、またどう考えるといいかを話し合っていきたいです。

荒幡さんは、ベネズエラと同じ南米大陸の真ん中にあるパラグアイにいま住んでいますよね。このニュースはパラグアイ現地では、どう受け止められていますか?

荒幡荒幡

パラグアイにはベネズエラからの移民もいて、ベネズエラの実情を知っている人も多いです。南米はどこでも政治の汚職が身近にありますから、今回は「アメリカがヒーロー的に救済してくれた」という捉え方が多い印象を受けています。

へえ。「ベネズエラ国民が、チャベス前大統領やマドゥーロ大統領の圧政から解放されて喜んでいる」という報道は日本でもありますが、実際はそれがより色濃いということですね。

荒幡荒幡

はい、どのパラグアイのメディアも、ベネズエラからの移民たちが広場に集まって喜ぶ姿を報道しています。パラグアイ人の友人もSNSのストーリーにはポジティブなコメントをあげることがほとんどです。

ただ、私は日本人なので「トランプってヒーローかな?」とは思います。国際法を犯すことと、ベネズエラの国内情勢が悪いことは別の問題なので、パラグアイの温度感には驚いています。入山先生はどうご覧になっていますか?

国際法って守る必要あるの?

僕は経営学者なので国際政治の専門家ではないし、ベネズエラに詳しいわけでもありません。しかし、個人的にこの件に関して持つといい、重要な視点があると思っています。

いま荒幡さんがまさに言ってくれたように、今回の件を見た多くの日本人は「アメリカは国際法を破っているではないか」と考えますよね。実際、国連憲章第2条第4項には、「すべての加盟国は、武力による威嚇又は武力の行使を慎まなければならない」とありますから、確かに明確に違反しているわけです。

ただ、僕が問いたいことがあります。それは大胆かもしれませんが、そもそも「国際法って守る必要あるの?」ということなのです。もっと大胆に言うと、そもそも法律って守る必要あるのでしょうか?

荒幡荒幡

え、そう言われると……。でも法律を守らないと秩序が崩壊してしまいますよね?

確かにそうかもしれません。でも、考えてみてください。では、相手が法律を守らなかったらどうしますか? 例えば、荒幡さんや小倉さんの自宅の隣に刃物を持った男が住んでいて、あなたの家を襲ってくる。仮に警察とかがいない状態で自衛する必要があったら、どうしますか?

荒幡荒幡

うーん、こちらも武器を持って応戦すると思います。……あ、確かにそれだと法律違反ですが、自分が死ぬとなったら法律を守っていられないですね。

そうするしかないですよね。

僕も当然、法律は守った方がいいと考えています。ただ、「なぜ我々が法律を守るのか」という根本のメカニズムを考える、という視点も重要だと思うのです。日本は法治国家ですから、子どもの頃からの刷り込みで、「法律は絶対に守るもの」として育てられます。でも僕から見ると、法律が機能するには、最低でも2つの条件が必要なんです。

1つ目の条件は、それをみんなが守るかどうかです。みんなが守るなら自分も守るし、自分が守ったらみんなも守る――と期待できる状態を、経済学のゲーム理論で「ナッシュ均衡」と言います。これが成立する社会状況かどうかがポイントです。

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