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国際基督教大学 政治学・国際関係学教授
アメリカのベネズエラ奇襲成功は、中国に「台湾統一も許される」「自分たちの裏庭で好きにしていい」という誤ったメッセージを送ってしまったのではないか。そんな憂慮の声が上がっている。だが、ICU教授(政治学・国際関係)のスティーブン・R・ナギさんは「中国の政治システムは台湾進攻による経済損失や国内混乱に耐えることができない。仮に軍事的に勝利しても、孤立し経済的に“不具”化すれば、それは敗北を意味する」という――。

写真提供=ロイター/共同通信社
トランプ米大統領(左)と中国の習近平国家主席=2025年10月30日、韓国・釜山
トランプのベネズエラ政変が台湾に突きつける問い
カラカスでニコラス・マドゥロ政権が転覆された夜明け前の作戦は、世界中の首都を震撼させた。数時間後には、外交アナリストたちがこう問い始めた――トランプの「ベネズエラ賭博」は、北京に「台湾統一も許される」という誤ったメッセージを送ってしまうのではないか?
答えは単純ではない。ベネズエラでの「成功」が台湾で通用しない理由を理解するには、両者の間にある決定的な非対称性を見極める必要がある。世界から非難の声も上がっているベネズエラ大統領拘束はいわば計算されたリスクだったが、中国がもし台湾に手を出せば、それは決して負けられない実存的な賭けであり、超ハイリスクとなる。
ベネズエラの成功法則は台湾に適用できない
カラカスで奏功した手法――世界経済から孤立した政権への精密攻撃――を台湾海峡に持ち込めば、破滅的結果を招く。
ブランシェットとディピッポによる2022年のCSIS(ワシントンDCにある戦略国際問題研究所)の分析が示すように、たとえ中国が台湾侵攻に「成功」したとしても、それは歴史的規模のピュロスの勝利(損害が多すぎる割に合わない勝利)に終わるだろう。
まず直接的被害を考えよう。
台湾に最も近い中国の3省(広東、福建、浙江)は、中国GDPの22%、人口の17%を占める。米国の非営利シンクタンク「ランド研究所」の推計では、1年間の紛争で中国のGDPは25~35%減少する。米国の減少幅5~10%と比べれば、その打撃の深刻さがわかる。
海運混乱だけでも第2次世界大戦以来最悪の規模になる。中国最大級の港湾6つが紛争地帯内にあり、世界のコンテナ船団のほぼ半数が台湾海峡を通過している。中国貿易が完全停止すれば、世界GDPから2兆6000億ドル(世界生産高の3%)が消失する。これはフランスの経済規模を上回る損失だ。
台湾の半導体支配が、このコストをさらに跳ね上げる。台湾は世界の半導体の60%、先端チップのほぼ90%を生産している。TSMCは、経済学者が「単一障害点」と呼ぶ存在だ。
マドゥロ排除が石油市場を揺るがす程度なら、台湾の機能停止は家電、自動車、医療機器、防衛システムの生産を全先進国で同時停止させる。ブルームバーグ社の専門分析部門ブルームバーグ・エコノミクスは初年度の損失を5兆ドルと推計している。
