英国紳士の御用達クルマといえば、アストンマーティンやベントレーを思い浮かべる。ジェームス・ボンドしかり、そんなイメージとなる。クルーザーならサンシーカー、シャンパーニュならボランジェと言ったところだろう。

これをイタリアに置き換えるとクルマはマセラティのような気がする。1914年に誕生した歴史あるブランドが、イタリアではその層に愛されてきた。

それには理由がある。マセラティの歴史はサーキットで培われてきたからだ。特に戦前がそうで、グランプリレースに代表されるモータースポーツはイタリア富裕層の社交場。彼の地の公爵や伯爵といった貴族、王族が集まっていたのがサーキットなのだ。イタリア王制廃止以前の話である。

そこで彼らはマセラティのレーシングカーで出場したり、それをプロドライバーに運転させたりしてパトロンとしてレース場に足を運んだ。英国で言えば、1920年代のベントレーがそうであったように。イタリア国内のライバルはアルファロメオ。現代に置き換えるとフェラーリのポジションにアルファロメオはいた。その意味では、現在この2つのブランドが同じグループにいることは歴史を知る者にとって感慨深い。

そんなマセラティの現在はというと、今もレーシーなイメージは生きている。スーパーカー然としたMCプーラと同シエロ、まんまレーシングカーにしたMCエクストリーマとGT2、それとGT2をロードゴーイングカー用に仕立てたGT2ストラダーレがそれだ。昔から軽量化にこだわるマセラティらしくカーボンパーツをふんだんに使ったそれらは、彼らの歴史を司るマシンとして現代に生きている。

MCプーラ

それじゃもう少しイージードライブな市販車といえば、グラントゥーリズモと同モデルの屋根開き版グランカブリオ、それとSUVのグレカーレとなる。中でもマセラティの魅力をより身近に感じられるのはグレカーレ。そのプライスレンジはマセラティの中ではかなりアフォーダブルに設定されている。

グレカーレ トロフェオ

ということで、前置きが長くなったが、グレカーレにフォーカスしたいと思う。このクルマの特徴はまずはデザイン。SUVにしてマセラティ然としていてカッコいい。しかもMC20からスタートした新世代顔で存在をアピールする。どこかクラシカルな雰囲気を同居させているのはお見事。自らのヘリテージをサンプリングした。グリルはピニンファリーナが手がけたA6GCSベルリネッタを思い起こさせる。1950年代のモデルだ。そして抑揚のあるグラマラスなスタイリング。そこはマセラティが主張するイタリアンデザインの真骨頂となる。

グレカーレ トロフェオ エンジン

次の特徴はエンジン。グレカーレのエンジン出力は3パターンある。300psと330ps、それと530psだ。つまり最低でも300psからスタートする。最近このカテゴリーのパワー合戦は激化しているが、2リッター直4ターボ+モーターのマイルドハイブリッドでこの出力は立派。というか頼もしい限りである。そして、トップには530psが君臨する。3リッターV6ターボはモーターによるブーストなしでこの数値を叩き出している。“ネットゥーノ”と呼ばれるこのV6ユニットはMC20にも積まれていたのと同じで、前述したレーシーなモデルとシェアする。その意味からもマセラティがSUVであっても走りに妥協していないことを理解してもらえるだろう。

グレカーレ

そんなグレカーレの中でも今回フィーチャーしたいのがエッセンツァ。イタリア語の「本質」を意味するモデル名で、日本限定で用意された。目的はグレカーレの存在とその走りをより多くの人に体感してもらおうというもので、新たなエントリーモデルとなる。

よってパワーソースやシャシーのセッティング、インテリアなどの装備内容はそのままに、オプションの選択肢を簡素化することで車両価格990万円を実現した。パワーソースは300psを発揮するマイルドハイブリッドである。これまで記した歴史あるレーシーでハイエンドなブランドをここまでリーズナブルにしたといった感じだ。マセラティをこのプライスでガレージに収められるのはいい機会だろう。

グレカーレ エッセンツァ

しかもこのクルマの「本質」の良さが色濃く表現されている部分がある。それは19インチのタイヤサイズによる乗り心地。ホイールをインチダウンすることで副産物が生まれた。高速道路からワインディングまで終始滑らかな乗り味を提供する。モデナの20インチ、トロフェオの21にはない快適さがそこにある。大径もいいが、こいつは悪くない。これまでいろいろなマセラティをテストドライブしてきたが、ある意味一番マセラティらしい乗り心地だ。

ということで、マセラティに興味ある方は一度試乗してみるといい。正直なかなか手を出しにくいブランドではあるが、グレカーレエッセンツァは程よくユーザーフレンドリーに出来ている。