テネシー州テリコ・プレーンズ(CNN) 米テネシー州の東部、曲がりくねった砂利道の果てで、1人の母親が森にちらりと目をやる。子どもの時分に歩き回っていた森で、深みのある印象的な景色が広がる。松とオークの植生が姿を消した先には、ブルーリッジ山脈の山並みがどこまでも続く。
「四輪車に乗って森の至る所を走ったものだった」。この女性はCNNの取材に答えてそう話した。匿名を条件にしたのは、身の安全に懸念があるからだ。「私たちには秘密の隠れ場所があった。何時間も隠れていた。(中略)両親に居場所を知られることはなかった」
ところが今は、事情が違う。
「我が子にかつての自分と同じことをさせるのは恐ろしい」。この3児の母親は、そう打ち明ける。子どもたちには次のように厳しく警告している。「何をするにせよ、あちら側に行ってはいけない。彼らが何をするか分からないから」
「(彼らの)おかげで自宅から出るのが恐ろしい」
女性に恐怖を抱かせる新たな隣人とは白人至上主義者の一群で、「パトリオット・フロント」と呼ばれる集団と関係がある。
米テネシー州の所有地で行われる「パトリオット・フロント」の訓練風景(Telegram)
本稿のために取材した専門家らによると、パトリオット・フロントは米国で最も活動的な白人の国家主義団体の一つ。ソーシャルメディアに複数のアカウントを持ち、頻繁に集会を開く。人種差別などに反対する団体「南部貧困法律センター(SPLC)」は、パトリオット・フロントをヘイト(憎悪)グループに指定している。そのメンバーは、全国各地の都市で数百人規模の集会を開催。覆面を着け、暴徒鎮圧用の盾を見せつけながら(南北戦争時の)南部連合国旗を振る。
CNNはこのほど、パトリオット・フロントがアパラチア山脈で拠点を建設する様子を追跡した。50ヘクタールの土地に広がるこの施設は、風光明媚(めいび)な町、テリコ・プレーンズの郊外に位置する。
数カ月にまたがる報告から、当該の所有地にまつわる過激主義的な特徴が浮かび上がった。そこには悪名高いネオナチの一家や、異教に思い入れを持つ総合格闘家などが含まれる。
「パトリオット・フロント」の所有地の空撮映像(CNN)
しかし取材班の報告は、そうした人々が引き起こす近隣住民の間での深い分断や、全国に広がる白人至上主義的活動の根強い脅威も浮き彫りにした。米ユダヤ系団体「名誉毀損(きそん)防止連盟(ADL)」がまとめたデータによれば、昨年白人至上主義者のイベントがテネシー州よりも多く開かれたのはテキサス、アラバマ、ペンシルバニアの3州のみだった。
「彼らはより広範なネットワークの一部だ」。米国土安全保障省の元上級アナリストで国内の過激主義の専門家、ダリル・ジョンソン氏はCNNの取材に答え、パトリオット・フロントについてそう語った。「集会であれ、非公開の会合であれ、格闘技の試合であれ、(メンバーは)他の組織の構成員と交流の場を持つことができる」
ジョンソン氏によると最悪のシナリオは、「そのような過程でテロ活動に従事する秘密の小集団が形成されてしまうことだ」。
パトリオット・フロントを率いるトーマス・ルソー氏は、本稿に向けたCNNからの再三のコメント要請に応じなかった。ほんの数年の間に、27歳のルソー氏は白人による国家主義的運動の旗手となった。
ルソー氏によると、米国人を名乗ることができるのは欧州にルーツを持つ白人だけだ。パトリオット・フロントは宣言文(マニフェスト) で、「米国人は今まさに被征服民になろうとしている」と主張する。グループは超保守的社会への回帰を提唱しており、ルソー氏は女性は政治に関与するべきではないと発言。複数のインタビューで、上記の米国人の定義に当てはまらない人々は国籍の有無に関わらず、強制送還するよう求めたこともある。
「外国生まれの人々は、国家が専有する土地の中において市民的地位を占めることが可能かもしれないし、義務に忠実な市民でさえあるかもしれない。それでも彼らは、米国人とは言えないかもしれない」。パトリオット・フロントの宣言文はそう述べている。
パトリオット・フロントは自分たちを非暴力的な団体と形容するが、抗議活動で性的少数者を支持する「プライド・パレード」を標的にしたこともある。また今年開かれたボストンでの集会では、ある黒人男性への暴力的な襲撃を巡り、パトリオット・フロントの関与が明らかになった。
テキサス州の弁護士でルソー氏の代理人を務めるジェーソン・リー・バンダイク氏はパトリオット・フロントが暴力的だとする見解に反論。グループが何らかの暴力行為に駆られたことは一度もないとしつつ、自身はグループのメンバーではないと付け加えた。

覆面姿で並ぶ「パトリオット・フロント」のメンバーの前に立つリーダー、トーマス・ルソー氏。今年1月、米首都ワシントンのトーマス・ジェファーソン記念館での抗議行動で/Jim Urquhart/Reuters
CNNが11月に撮影したドローン(無人機)による映像を、パトリオット・フロントが当該の所有地を管理する2021年以前の数年間にまたがる衛星画像と組み合わせると、少なくとも5棟の建物がテネシー州の辺境の地所に建設されたことが分かる。そこには格闘技の大会が行われる倉庫のような体育館も含まれる。
近隣住民がCNNに明らかにしたところによれば、施設には電気が敷かれ、大会開催時には大音量の騒音が響き渡るという。
パトリオット・フロントのメンバーがネット上に共有した動画をCNNが確認すると、そこにはトレーニングや精神的な儀式、そして流血を伴うグローブ無しの格闘が建物内で行われていることが明らかになった。
パトリオット・フロントがルソー氏によって設立されたのは、「右派の団結」を呼び掛けたバージニア州シャーロッツビルでの17年の集会後のことだった。この集会には当時高校生だったルソー氏も参加していた。パトリオット・フロントは前身となった組織「バンガード・アメリカ」から生まれ、世論に対する鋭い感覚を急速に身に付けていった。ルソー氏はメンバーに厳しい体力プログラムを課すことで知られる。団体は穏健とは呼びにくい複数のソーシャルメディアチャンネルに登場することで、若年層に影響を及ぼしている。
CNNの分析によれば、パトリオット・フロントの最近の行進には250人前後が参加している。参加を許されるのは欧州にルーツを持つ白人男性だけだ。
ルソー氏の弁護士のバンダイク氏はCNNの取材に答え、「これが暴力的な団体だという見解はナンセンスだと思う」と強調。ルソー氏に会ったのは共にイーグルスカウト(ボーイスカウト米国連盟の最高の進級記章)で活動していたからで、これまで同氏の弁護を何度も担当してきたという。

トーマス・ルソー氏の逮捕後の撮影写真。2022年、アイダホ州コー・ダレーンのプライド・パレード近くで行われた「パトリオット・フロント」の抗議行動の後、数十人と共に逮捕された際に撮影された。ルソー氏に対する訴訟は最終的に退けられた/Kootenai County Sheriff’s Office
パトリオット・フロントのイベントは長らくルソー氏の地元のテキサス州で開催されてきた。しかし最近になって、同グループがネットで共有する画像や動画は、テネシー州の所有地に活動範囲を広げたことを示唆する。
パトリオット・フロントはその実態をほとんど明かしていない。ルソー氏を除くメンバーは集会で覆面の着用を義務づけられる。ソーシャルメディアに流れるどの素材でも、顔にはぼかしが入る。テネシー州の所有地の位置も非公表だが、CNNは複数の画像と動画から現地を特定。物理的な環境を分析した他、ある訓練動画の背景に映る山脈をテリコ・プレーンズ周辺の地形と照合して突き止めた。
当該の所有地はパトリオット・フロントの主要メンバー、イアン・エリオット氏が管理している。同氏は集会時にはルソー氏のボディーガードも務めている。
エリオット氏はCNNの再三のコメント要請に応じていない。CNNは同氏にインタビューを申し込んだ他、所有地の見学も依頼した。SNSテレグラムの開封確認から、取材班からのメッセージは読まれているとみられるが、返信はなかった。
今年に入って自ら投稿したショート動画の中で、エリオット氏は所有地に関する自身の計画について説明。所有地を「トライバル・ランド(同族の土地)」と呼んでいた。
「トライバル・ランドは10年近く前に始まったプロジェクトだった」。グループ内では「ノーマン」の名で通っているエリオット氏はそう語る。「計画は、同じ願望の一部に端を発する。その願望は同じ心、同じ血を持った人々が抱くもので、計画的な共同体や私的所有地、自律的な所有地を念頭に置く」
同所有地に約2年常住していると明かすエリオット氏によれば、所有地の計画は古代北欧神話の神オーディンを崇拝する宗派から着想を得たという。異教であるこのオーディン派は、白人の国家主義者団体の一部で人気を博している。
施設の建設作業は急ピッチで進められた。複数の近隣住民によるとこの数年で人や車両、物資が出入りし、電気も設置された。衛星画像から、建物の建設のために複数の区画が伐採されているのが分かる。エリオット氏が共有した動画は、40人以上が所有地で作業していることを示す。
作業は季節や天候を問わず行われた。具体的には屋根工事やコンクリート工事、木材加工、壁の設置、電気回路の設置、配管工事だとエリオット氏は動画内で説明。「最初に現地に来たときは道路が通っていなかった。全く何もなかった」と振り返った。
今年パトリオット・フロントのメンバーと共有したテレグラムの動画の中で、ルソー氏は所有地に関する地元メディアの報道に反論している。「これは複合施設ではない。周囲を取り囲む壁も、監視塔もない。スポットライトも有刺鉄線もない」
CNN取材班が現地を訪れたときには私有車道に立ち入り禁止の標識があったため、団体の所有地に足を踏み入れることはしなかった。
しかし、パトリオット・フロントの存在は、地元の共同体の緊張を高めている。
施設はテリコ・プレーンズの境界のすぐ外に位置する。テリコ・プレーンズはアパラチア山脈に面したのどかな町で、約800人の住民が暮らす。パンを売る店が1軒、レストランと酒場が2~3軒の他、多数の教会がある。
町の首長、マリリン・パーカー氏はCNNの取材に答え、住民の中にはパトリオット・フロントの存在を不安に感じる人もいると明かした。
「彼らに関する電子メールが定期的に届く」「人々は懸念している。彼らは何をしているのか? 民兵組織なのか、それともただのボクサーなのか?(と尋ねてくる)」(パーカー氏)

テリコ・プレーンズの首長、マリリン・パーカー氏。「パトリオット・フロント」への懸念を示す電子メールが寄せられるとCNNに明かした/CNN
また、車を西へ少し走らせたところにある町、アセンズでは、柔術を教える学校が危うく閉校に追い込まれかけた。同校に定期的に通っていたエリオット氏とその友人の一団について、パトリオット・フロントのメンバーであることが発覚したからだ。
「彼(エリオット氏)とその連れの人たちに、ここへはもう来ないでくれと頼んだ」。学校を運営するベンジャミン・ティム氏はCNNの取材にそう答えた。「向こうはそれについて不服そうな様子だった」
ティム氏によれば、柔術学校の生徒たちがエリオット氏とトレーニングすることに不満を表明した他、全国の人々からオンライン上で学校に対する否定的な評価が寄せられたという。一時は学校の閉鎖も余儀なくされかねないほど状況が過熱したと、ティム氏は振り返った。
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次回「ありふれた風景に潜む白人至上主義者の団体、活動拠点の内側に迫る 米テネシー州<中>」は12月28日に公開予定
