ウクライナ・キーウ(CNN) ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、ディール(取引)を望んでいない。相手からそれを受け入れるようせがまれて、甘美な気分に酔いしれたいわけでもない。ドナルド・トランプ米大統領の特使と娘婿は5時間にわたりプーチン氏と協議したが、目立った成果はほとんど得られなかったようだ。ここは現状から一歩離れ、プーチン氏自身の視点に立って世界とロシアによるウクライナ侵攻を眺めることが有益だ。

自ら始めたこの戦争でプーチン氏が期待したのは、ロシアがものの数日で欧州における傑出した軍事大国としての地位に返り咲くことだった。それは決定的な行動を起こす能力を備えた国であることを意味する。これより前には米国が、同国史上最長となるアフガニスタンでの戦争からの屈辱的な撤退を強いられてもいた。プーチン氏が望んだ速やかな勝利は、泥沼の消耗戦に姿を変える。しばらくの間は、戦略的な敗北が現実味を帯びていた。米国と北大西洋条約機構(NATO)が勇猛果敢な小国であるウクライナを支援し、1年前には思いもよらなかった戦果を得るのを可能にしたからだ。

ところがそこに恩恵が転がり込む。大統領2期目に就任したトランプ氏はプーチン氏への曖昧(あいまい)な共感(もしくは称賛)を示し、和平を熱望。どんな犠牲を払ってでもそれを実現すると言わんばかりの構えを見せた。プーチン氏が選挙に臨むことはない。大統領の任期に期限があるとすれば、恐らくそれは本人の寿命の終わりのみだろう。

ウクライナは自分の戦争ではなく、そこに金を注ぎ込むつもりはない。とにかく戦争を終わらせたい。そうトランプ氏が口にするのを聞いたプーチン氏は、世界最大の軍事大国の意志の弱さと無関心を感じ取った。KGB(国家保安委員会)の元スパイであるプーチン氏から見れば、歴史がこんな機会を自分にもたらすなど全く思いもよらなかったことだろう。まさかあの米国が、ロシアに和平を求めてくるとは。しかもそのプロセスが長引けば長引くほど、ロシア側は有利な結果を得られる公算が大きいのだ。

プーチン氏の側近のウシャコフ大統領補佐官は2日に行われた協議の後、27項目を記した計画とその他の文書4点について説明した。これらの詳細は、恐らくウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領を苛(いら)立たせるために策定したものだろう。ゼレンスキー氏はつい先ごろ20項目の計画を示したばかりで、それ以外の3点の文書の中身について相手側が既に目を通したことを期待しているに違いないからだ。

ウクライナ侵攻をめぐる和平案について、米ロが協議を行った=2日/Kristina Kormilitsyna/AFP/Getty Images
ウクライナ侵攻をめぐる和平案について、米ロが協議を行った=2日/Kristina Kormilitsyna/AFP/Getty Images

しかし今回の外交の場はほぼ沈黙の内に結末を迎え、そこにゼレンスキー氏を喜ばせる理由はほとんどなかった。同氏のチームは今後欧州諸国に状況を説明し、米国側とも再度協議した上でウクライナの首都キーウに戻る。トランプ氏が言及した感謝祭を期限とする即時の和平合意は、今や蜃気楼(しんきろう) だ。行く手には荒涼たる砂漠が迫っている。

ウクライナは4年近くロシアの侵攻に耐えているが、同時に11カ月近くにわたってトゥルース・ソーシャル(トランプ氏が使用するSNS)にも振り回されている。予想の付かない後者の影響は、理解されないことが多い。トランプ氏の投稿内容は揺れており、ロシアに過去最大級の制裁を科すことや巡航ミサイル「トマホーク」のウクライナへの供与に触れたかと思うと、次の瞬間には一転してロシア側の主張を唱え、欧州の同盟国やゼレンスキー氏本人に強大な圧力をかけてくる。

それがウクライナの士気に与える悪影響は馬鹿にできない。こうしたエピソードを歴史として書き記すなら、その焦点は恐らく、ウクライナが勇敢かつ見事な抵抗を自国より強大な敵に対して示した部分になるだろう。だがその後は、彼らの犠牲がホワイトハウスによって一転、台無しにされる過程が描かれる。ホワイトハウスの頭にあるのはテレビに映るごく小さな喜びの瞬間や、トランプ氏の注意を引いた各国指導者に圧力をかけることだけだ。

トランプ氏が可能な限り早期に戦争を終わらせようとするのは正しい。ただ現在の状況は、プーチン氏と同氏の目的に関する致命的な読み違いから生じたものだ。プーチン氏は現実主義者であり、新たな好機にも挫折にも対応するが、より大きな全体的な理想は持ち続けている。それは世界の安全保障のバランスを設定し直し、数十年にわたる覇権を築いた米国の支配的地位を打ち消すことに他ならない。

プーチン氏も全能というわけではなく、ほんの2年前には自身の忠実な部下の動向を読み誤って混乱を招いた。それは2023年、失敗に終わったロシアの民間軍事会社ワグネルの反乱で確認した通りだ。また本国では明らかな兵力及び財政の圧迫に直面してもいる。しかし反汚職の捜査や中間選挙とは無縁で、後釜を狙う者が複数いるというわけでもない。同氏はロシアの産業複合体を、獰猛(どうもう)な戦時体制下に置き直した。恐らくは綿密な計画を立てた上で、今や弱り果て、限界に達した国民の動員解除を行うに違いない。多くの面において、戦争の継続こそがプーチン氏にとっては統治の継続をもたらす最上の機会となっている。

では、トランプ氏の和平プロセスは一体どうなるのだろうか? ウシャコフ氏は提案された合意内容の一部は受け入れ可能だとしつつ、その他の部分は厳しく批判した。ゼレンスキー氏はクレムリン(ロシア大統領府)との協議の前に、領土交換という案を内々に検討していた可能性もあるようだ。これは戦争における「レッドライン(越えてはならない一線)」 を和らげる。しかし、ウクライナ側からの譲歩内容は厳重に秘匿されていた。恐らくはゼレンスキー氏を今後の協議の新たな出発点へ追い込むことを避けるためだろう。しかし、米国側の特使のスティーブ・ウィトコフ氏が取引にどれほど甘い味付けを加えようとも、プーチン氏はその皿を突き返した。

ロシアによるウクライナへの攻撃は被害をもたらし続けている/Genya Savilov/AFP/Getty Images
ロシアによるウクライナへの攻撃は被害をもたらし続けている/Genya Savilov/AFP/Getty Images

このことから今後数カ月の展開が見えてくる。そしてロシアの意図を理解するのはそこまで難しくはない。プーチン氏は軍事的に勝利しつつある——時間はかかっているが、その点に疑いの余地はない——同氏の目に映るウクライナは人的資源と資金調達の問題で弱体化し、再燃を繰り返す国内政治の危機にも陥っている。

ゼレンスキー氏は国内で身動きがとれない。停電と前線での犠牲が士気を蝕(むしば)み、繰り返される敗北の苦しみ、外交的欺瞞(ぎまん)と圧力、そして減りゆく支援とが相まって、非常に多くの人々が次のように問いかける。ロシアの大勝以外、この物語がどんな終わりを迎えるというのか?

トランプ氏は何よりも和平を望んでいる。ここ数カ月で明らかなように、本人が提携国に譲歩を迫る行動は反射的なものになっている。不動産王として下請け業者を締め上げ、購入候補者にとって有利な条件を引き出すなら、これは理に適(かな)う。しかしプーチン氏はホテルを買おうとしているわけではない。トランプ氏が試みているのは、武装した不法占拠者に対し、物件から退去するよう説得することだ。不法占拠者はその物件に火を放っている。単に地域での存在感を再び誇示するという目的で。トランプ氏は、この手の取引には慣れていない。

戦闘並びに時間をかけた勝利こそがプーチン氏の望みであり、本人も今後その両方が続くことを予見している。さらに同氏にとって喜ばしいのは、敵国の主要な支援者だった米国が今や取引を懇願しているという堪(たま)らない光景だ。そのために米国は、大統領の娘婿のジャレッド・クシュナー氏と特使のウィトコフ氏を差し向けている。ロシアによる前線での進展は膨大な犠牲を伴い、苦痛や残酷さを覚えるほどに遅々として進まない。しかしもっと視野を広げれば、そこからプーチン氏が描く地政学上の熱に浮かされた夢の一つが徐々に見えてくる。その夢は、真の持続的な平和を遥(はる)か遠くに追いやってしまう公算が大きい。

本稿はCNNのニック・ペイトン・ウォルシュ記者による分析記事です。