(CNN) ロシアのプーチン大統領を乗せた専用機が4日にニューデリーに着陸する際、プーチン氏はインドの揺るぎないパートナーだけに用意される盛大な式典で迎えられるだろう。しかし、主催者であるインドのモディ首相は同時に、主要競争国の米国とも深い戦略的関係を維持しようと試みている。
これがインド外交の二面性だ。一方には、ロシアの先端戦闘機を購入する可能性や安価な石油、冷戦時代に築かれた強固な友情が存在する。その一方で、技術や貿易、投資を巡る米国との協力や、トランプ米大統領が厳しい関税を撤廃することへの期待も見え隠れする。
プーチン氏によるウクライナ侵攻後、インドは巨大市場とインド太平洋地域の要衝という地理的条件を活用し、米ロ両国の関心を引き付けようと試みてきた。
ニューデリー中心部の通りにはロシアとインドの国旗が並んで掲げられ、プーチン氏の訪問を歓迎する巨大な看板が立ち並ぶ。

プーチン氏の訪問に備え、通りにインドとロシアの国旗が掲げられている=ニューデリー/Sonu Mehta/Hindustan Times/Getty Images
だが、ウクライナ戦争開始後初となるプーチン氏のインド訪問は、モディ氏にとって緊張をはらんだタイミングで行われる。
インドは現在、米政府との間で待望の通商協定を交渉中だ。インドは50%の関税を課されており、その半分はロシア産の割安な石油の購入を続けたことへの直接的な制裁と位置付けられている。
インド政府は最近、米国への配慮からロシア産石油の購入を削減し、米国から液化石油ガス(LPG)220万トンを購入することに合意した。
それでも、プーチン氏の訪問に当たっての議題としては、ロシアとのさらなる防衛協力が目立つ。近年のインドはパキスタンや中国との国境対立が激化しており、国を守るうえでロシア製兵器が不可欠とみなしている。
この点は、インドが複雑な地域情勢をどう乗り切らねばならないかを浮き彫りにする。ロシアは中国の緊密なパートナーでもあるが、その中国はパキスタンへの主要な武器供給国だ。
インド政府はプーチン氏を厚遇することで、欧米諸国と中国の双方に対して「選択肢がある」というシグナルを送っているーー。アショカ大学のカンティ・バジパイ客員教授(国際関係論)はそう分析する。
バジパイ氏はプーチン氏への厚遇について、ロシア政府が国際的に非難を浴びようとも、「インドはロシア側に付き続ける意思があるというサインだ」と説明。「石油や兵器だけにとどまらず、外交上のヘッジにもなる。インドには第3の選択肢があると米中両国に示すことで、交渉の余地が広がる」と指摘した。
「時の試練を経た」友情
インドとロシアの緊密な関係は冷戦期に形成された。当時、独立したばかりのインドは公式には「非同盟」を掲げていたが、新国家としての進路を模索する中で、ソ連から多大な産業支援や経済援助を受けた。
しかし1970年代になると、インドはロシア寄りに傾斜する。米国がインドの宿敵パキスタンへの軍事支援や金融支援を強化したためだ。インドへの兵器供与を開始したロシアは頼れる対抗軸になり、以降、インドはロシアのこの役割を重視してきた。
世界の兵器取引を追跡するストックホルム国際平和研究所(SIPRI)によると、インドによるロシア製兵器の調達はここ4年で減少したものの、ロシアは依然として最大の軍事サプライヤー(供給国)の地位にある。

インドで行われた米軍との合同演習で、Su30戦闘機の横に立つインド空軍の要員=2023年4月24日/Dibyangshu Sarkar/AFP/Getty Images
ロシア製兵器の大半は、インドのライバルである中国を念頭に購入されている。近年の中国はロシアの緊密なパートナーとして浮上しているが、インドとは長年にわたり国境対立を抱える。
中国はインドの宿敵パキスタンへの主要な武器供給国でもあり、パキスタン軍は今年発生した短期間の国境衝突の際、中国製戦闘機を使用してインド軍の戦闘機を撃墜したと主張している。パキスタンの当局者によると、撃墜した戦闘機の一つはロシア製のSu30だった。
ロイター通信によれば、インド軍の29個戦闘機飛行隊では現在、ロシア製のSu30が機体の大半を占めているという。
ロシア大統領府のペスコフ報道官は2日、記者団に対し、今週の協議ではロシアの最新鋭戦闘機Su57の購入が議題に上る可能性が高いと明らかにした。
だが、ここにきてメディアの注目を集め、かつ最大の懸案となっているのは、インドとロシアの経済面のつながりだ。
2022年のウクライナ侵攻を巡る欧米の制裁でロシア産石油の価格が急落すると、インドは好機とみて飛びついた。好況に沸く経済を加速させ、14億人を超える人口を支えようと躍起なインドは、割安なロシア産原油の購入量を大幅に増やし、ロシアの主要取引国の一つに名を連ねるようになった。
欧米の非難に対し、インドは一貫して自国民と経済を守る責務があるとの主張を展開している。
インドのシンクタンク「オブザーバー・リサーチ財団(ORF)」のナンダン・ウニクリシュナン研究員は「我々には数億人の貧しい国民がいて、貧困から脱却させる必要がある。そのためには、インドはあらゆる大国と適切な関係を維持することが必要だ」と説明する。
しかし8月、しびれを切らしたトランプ氏はインドに50%の関税を課した。米国が被る貿易赤字だけでなく、ロシア産石油購入への制裁でもあった。
続けて10月には、トランプ氏がロシアの石油大手2社に対する制裁を発表し、インドの関係機関にただちに影響が広がった。貿易や精製関係の情報筋はロイター通信に対し、インドの12月の石油輸入は少なくともここ3年で最低になる見通しだと語った。

インドのマンガルールにある製油所=2025年9月5日/Abhishek Chinnappa/Getty Images
米国政府による経済面の圧力は米印関係を悪化させるだけでなく、中国との関係改善を加速させているようにも見える。トランプ氏の対インド関税が発効した数日後、モディ氏は中国の習近平(シーチンピン)国家主席との首脳会談に臨むため、7年ぶりに中国を訪問した。首脳会談は西側機関の対抗軸となりうる世界のリーダーとしての中国政府の立場をアピールすべく演出されていた。
この首脳会議は、モディ氏とプーチン氏が最後に対面した場でもあった。2人はカメラの前で満面の笑みを浮かべ、温かく力強い握手を交わすと、人目を避けてロシア大統領の専用リムジンに乗り込み、1時間にわたり非公開会談を行った。
アショカ大学のカンティ・バジパイ教授は「インドがあの場で何を狙っていたのか、人々は理解していると思う。欧米諸国を少しばかり鼻で笑って見せたのだ」と指摘する。
綱渡り
第1期トランプ政権もバイデン政権も、インドを中国への重要な対抗軸と位置付け、技術移転や合同軍事演習を通じてインドとの戦略的関係を強化してきた。
モディ氏は外交を壮大なスペクタクルに仕立てる才覚を持つ右派ポピュリストという点でトランプ氏と通じるものがあり、トランプ氏とも良好な関係を築いてきた。モディ氏は1期目のトランプ氏をインドに迎え、米ヒューストンでの「やあモディ!」と題した集会では、外交儀礼を顧みずにトランプ氏再選を訴えた。
インドと米国は最近、産業協力や技術・情報共有の深化を目的とした新たな10年間の枠組みにも合意しており、関係改善の兆しと言えるかもしれない。

ホワイトハウスの大統領執務室で会談するトランプ米大統領とインドのモディ首相=2025年9月5日/Andrew Harnik/Getty Images
インド政府は対米貿易協定の大枠について現在も交渉中で、商工省の高官ラジェシュ・アガルワル氏は先週の会合で発言した際、年内の妥結を見込んでいると明らかにした。
もっともインドの視点からすれば、こうした動きは他のパートナーとの関係断絶のシグナルを送るものではない。ORFのウニクリシュナン氏は「米国と野心的な貿易協定を結びつつ、ロシアと実務的な関係を維持することに矛盾はない」と指摘する。
専門家によれば、こうした自信を支えているのがロシア政府の理解だ。
バジパイ氏は「インド政府とロシア政府の間には緊密な関係がある」「プーチン氏はモディ氏が国内で大きなプレッシャーにさらされていることが分かっている。モディ氏は国内の有権者の要求に応えなければならず、難しい立場に置かれている」と語る。
とはいえ、プーチン氏の訪印中に大規模な防衛契約が議題に上ることを踏まえると、こうした微妙なかじ取りは米政権の厳しい視線にさらされるだろう。
ウニクリシュナン氏は「特に米国との貿易協定がまだ成立していない以上、インドは慎重に対応する必要がある」と述べた。
「現在のような難しい局面で、これ以上の刺激要因を持ち込みたくはないはずだ」
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本稿はCNNのリア・ムガル記者による分析記事です。
