来年の春に向けて、すでに準備を始めている一人の男性がいました。ちょっと特別な中学校をつくるのが使命です。いま需要が伸びているという、その中学校。つくり方も特殊でした。

愛知で増える「夜間中学」 来春は3校新設

高校教員に出た辞令は「中学校をつくれ」!? 教え子の言葉に励まされ慣れない仕事に奮闘 義務教育を受けられなかった人に学び直しの場を

愛知県豊橋市にある豊橋工科高校は、ちょっと変わったつくりになっています。

下駄箱は一般的な物よりも大きく、下の段には靴やスリッパを、上の段には教科書やファイルなどを入れられるようになっています。

さらに、掲示物は7か国語で表示。ゴミ出しのルールがさまざまな言語で書かれています。

なぜこのような工夫がされているのでしょうか。その理由は夜になると分かりました。

高校教員に出た辞令は「中学校をつくれ」!? 教え子の言葉に励まされ慣れない仕事に奮闘 義務教育を受けられなかった人に学び直しの場を

高校の教室を使って開かれていたのは、夜間中学。学校に行きづらさを感じていた人や、家庭の都合で来日した人など、何らかの理由で義務教育をじゅうぶんに受けられなかった人が集まり、平日の夜間に授業を受けています。

日本人だけでなく様々な国籍の生徒がいるため、授業には通訳も参加。

救命士を目指す20代生徒:

「目標があったんですけど、自分1人だとどうしても頑張りきれないことが多かった。誰か信頼できる人たちの手を借りたいと思って、夜間中学に入りました」

フィリピン国籍の16歳生徒:

「卒業したら高校に入りたいです」

2025年度から愛知で2校設置された夜間中学。2026年度には追加で3校が開校する予定ですが、高校の中に夜間中学をつくるというのは、なかなか大変なことのようです。

高校教員が異色の挑戦 背中を押した教え子の言葉

高校教員に出た辞令は「中学校をつくれ」!? 教え子の言葉に励まされ慣れない仕事に奮闘 義務教育を受けられなかった人に学び直しの場を

9月17日、一宮高校。学校の備品が載ったカタログにびっしりと付箋を貼っていたのは、丹下隼さん。来春開校する「愛知県立いちのみや中学校」(夜間中学)の立ち上げを担当しています。

すでに高校の備品がある中で、どれくらいなら夜間中学に必要な備品を置けるのか、調整するのも仕事の一つ。

しかし丹下さんは、こうした仕事はまったく不慣れだといいます。それもそのはず、実は、この春までは一宮高校定時制の地歴公民科の教員をしていたのです。

夜間中学の新設に伴い、愛知県教育委員会の指導主事として開校に向けた準備を任されることになりました。

高校教員に出た辞令は「中学校をつくれ」!? 教え子の言葉に励まされ慣れない仕事に奮闘 義務教育を受けられなかった人に学び直しの場を

教員時代の思い出の品を見せてもらうために自宅を訪ねると、寄せ書きや手紙がずらり。

愛知県教育委員会 丹下隼指導主事:

「これが定時制に初めて赴任したときの生徒たちが書いてくれたメッセージ。これは本当にすごくうれしかったです。この子は『今までいっぱい叱られてきたけど、生徒のことを思っているいい先生だなと思いました』と」

見返していると自然と笑顔がこぼれます。

高校の仕事にやりがいを感じていた中で決まった夜間中学の担当。高校の教員でありながら中学校を担当することに、当初は戸惑いがあったといいます。そんな丹下さんの背中を押したのも、生徒からのメッセージでした。

愛知県教育委員会 丹下隼指導主事:

「(生徒からの)メッセージを見て、夜間中学を必要としている人に声を届けなければいけないなと」

困っている生徒がいるのは夜間中学も一緒です。

“困っている人”に学び直しの場を

高校教員に出た辞令は「中学校をつくれ」!? 教え子の言葉に励まされ慣れない仕事に奮闘 義務教育を受けられなかった人に学び直しの場を

夜間中学を必要としている一人でも多くの人に通ってほしい。その思いで、近隣の役所を訪れてPRする丹下さん。

時には、地域の日本語教室にも顔を出し、外国にルーツを持つ人からの需要にも応えようと声をかけます。

ただ、夜間中学はあくまで義務教育を受けられなかった人のための学校。定時制高校の現場も知っている丹下さんには、葛藤もあるようです。

愛知県教育委員会 丹下隼指導主事:

「何でもかんでも高校の定時制に入れようっていうのも、本人が(日本語を)しゃべれないと苦しい思いをするので…」

高校教員に出た辞令は「中学校をつくれ」!? 教え子の言葉に励まされ慣れない仕事に奮闘 義務教育を受けられなかった人に学び直しの場を

夜間中学開校に向けて着々と準備が進む中、11月19日、丹下さんたちが向かったのは真新しい部屋。

高校の一部屋をどうにか融通し、夜間中学の職員室が完成したのです。あたたかい雰囲気にしたいと、内装はカラフルに仕上げました。

愛知県教育委員会 丹下隼指導主事:

「僕なんか前の部屋の様子を知っているから余計に(びっくりしました)。いよいよだなっていう感じはします」

ここにどれだけの生徒が来るのでしょうか。学び直しを必要とする生徒たちを丹下さんが迎えるのは、次の春です。