「東京2025デフリンピック」2日目の11月16日、駒沢オリンピック公園総合運動場体育館で行われたバレーボール男子予選の試合の様子。音に頼らず“目”で伝わる応援「サインエール」など新しい試みが広がっている。 「東京2025デフリンピック」2日目の11月16日、駒沢オリンピック公園総合運動場体育館で行われたバレーボール男子予選の試合の様子。音に頼らず“目”で伝わる応援「サインエール」など新しい試みが広がっている。 画像提供:東京都

耳が聞こえない・聞こえにくいアスリートを対象としたオリンピック「東京2025デフリンピック」が、2025年11月15日に開幕した。

これに合わせて東京・代々木の国立オリンピック記念青少年総合センターにオープンしたのが、「デフリンピックスクエア」だ。大会期間中(11月15日~26日)、デフスポーツやろう者の文化への理解を深めるブースなどが出展し、誰でも無料で楽しむことができる。

代々木公園に隣接する敷地内でさまざまなコンテンツが楽しめるデフリンピックスクエア。期間中はフォトスポットやキッチンカーの出店、多彩なアーティストによる公演などが行われている。代々木公園に隣接する敷地内でさまざまなコンテンツが楽しめるデフリンピックスクエア。期間中はフォトスポットやキッチンカーの出店、多彩なアーティストによる公演などが行われている。 画像提供:東京都最新のデジタル技術を体感できる「みるTech」出典:「デフリンピックスクエア」ホームページ出典:「デフリンピックスクエア」ホームページ

文化・技術発信エリア内に設置された「みるTech」では、インクルーシブな社会を実現するデジタル技術の展示や体験プログラムが行われている。

画像提供:東京都画像提供:東京都

ユニバーサルコミュニケーション技術のほか、VR・AR技術などを駆使したアクティビティが体験可能。子どもから大人まで国籍や障害の有無にかかわらず楽しむことができる。出展企業はソフトバンクやソニーグループなど25社に上る。

会場受付に設置されているTOPPANが開発した「VoiceBiz® UCDisplay®」。音声またはキーボード入力した内容の翻訳結果が透明なディスプレイに表示され、相手の顔を見ながら会話することができる。 会場受付に設置されているTOPPANが開発した「VoiceBiz® UCDisplay®」。音声またはキーボード入力した内容の翻訳結果が透明なディスプレイに表示され、相手の顔を見ながら会話することができる。 撮影:Mashing Upゲームはもっと自由になれる

「みるTech」内のソニーグループのブースに展示されていたのは、PlayStation 5(PS5)。2020年11月の発売以来、世界中のユーザーに向けて継続的にアクセシビリティ機能の強化を図っている。

2025年4月のシステムアップデートで追加されたのが「オーディオフォーカス機能」だ。

ヘッドホン使用時にオーディオフォーカス設定をオンにすると、「エンジン音や振動音などの低音」「ボイスチャットの音声やキャラクターの声」「足音や金属音などの高音」「すべての音域で音量が小さい音」のうち強調したい音を選択できる。 ヘッドホン使用時にオーディオフォーカス設定をオンにすると、「エンジン音や振動音などの低音」「ボイスチャットの音声やキャラクターの声」「足音や金属音などの高音」「すべての音域で音量が小さい音」のうち強調したい音を選択できる。 撮影:Mashing Up

このオーディオフォーカス機能はPS5でプレイできるすべてのソフトで設定でき、使用するヘッドホンの種類も問わない。こうした音を最適化する機能がゲーム機に搭載されたのはPS5が世界初だという。

開発期間は約3年。ソニーでは「誰もが感動を分かち合える未来を、イノベーションの力で。」をテーマに、多様なニーズを持つ当事者とともに開発を進めるインクルーシブデザインに取り組んでおり、難聴者も参加したユーザーテストは複数回行われたという。

ブースにいたソニーの担当者に、テスト時の印象的なエピソードを聞いた。

「RPGゲームが好きで、数年前に難聴になった40代の女性の言葉が心に残っています。

『初めてプレイするゲームはキャラクターがいつしゃべり出すか分からないから、聞き逃さないようにと常に集中していなくてはいけないため、すごく疲れる。

でもオーディオフォーカス機能を使ったらキャラクターの声が聞き取りやすくて感動した。こんなにリラックスしてゲームを楽しめたのは数年ぶり』と。その方の笑顔が今でも忘れられません」(PS5・商品企画担当者)

とある米国のゲーム開発スタジオが実施したアンケートによると、およそ2割のプレイヤーが何らかの障害を抱えているといい、このような技術革新は、すべての人が等しくエンターテインメントを享受できる社会の実現への一歩になると感じた。

ほかにもブースでは、叩いた音を光と振動に変換し、互いのリズムを感じながら合奏が楽しめる「ハグドラム」と小型軽量版の「ハンドルドラム」も体験できる。

誰もが一緒に演奏できるインクルーシブな打楽器“ゆる楽器”として開発された「ハグドラム」。胴体には振動スピーカーが搭載され、抱えて演奏すると自分の叩いた音や合奏する相手の音が振動として再現される。誰もが一緒に演奏できるインクルーシブな打楽器“ゆる楽器”として開発された「ハグドラム」。胴体には振動スピーカーが搭載され、抱えて演奏すると自分の叩いた音や合奏する相手の音が振動として再現される。撮影:Mashing Up手話ユーザー同士の「壁」を越えるツール

続いて訪れたのは、ソフトバンクが開発する、AIを使って異なる言語間のコミュニケーションをサポートするアプリ「SureTalk(シュアトーク)」のブースだ。

PCやタブレットなどのデバイスとネットワーク環境があれば使えるSureTalkでは、端末のカメラを通じてAIが手話ユーザーの動きを読み取り、リアルタイムで手話をテキストに変換。

それを見てビデオ通話でつながっている音声話者が言葉を返すと、その音声がテキスト化され、手話ユーザーにも表示される仕組みだ。

SureTalkのデモンストレーションの様子。 SureTalkのデモンストレーションの様子。 撮影:Mashing Up

これまでは「手話と音声」をつなぐツールとして活用が進んでいたが、今回のデフリンピックに向けて、新たに開発されたのが「手話と手話」をつなぐ機能だ。

そもそも手話には、国や地域ごとに異なる「日本手話」や「アメリカ手話」などの自然言語と、国際的な場でのコミュニケーションのためにつくられた「国際手話」がある。

日本手話とアメリカ手話、あるいは日本手話と国際手話など、異なる手話ユーザー同士の会話には翻訳が必要であり、SureTalkがその役割を担う。

国際手話のユーザーと日本手話のユーザーがSureTalkを通じて会話している様子。外国の手話は「国際手話」と「アメリカ手話」に対応し、画面に表示されるテキストは11カ国語の中から選ぶことができる。手話→テキスト化→手話→テキスト化の流れがスムーズでテンポよく会話が展開されているのが印象的だった。 国際手話のユーザーと日本手話のユーザーがSureTalkを通じて会話している様子。外国の手話は「国際手話」と「アメリカ手話」に対応し、画面に表示されるテキストは11カ国語の中から選ぶことができる。手話→テキスト化→手話→テキスト化の流れがスムーズでテンポよく会話が展開されているのが印象的だった。 撮影:Mashing Up

2017年にソフトバンクの新規事業として立ち上がったSureTalk。

開発のきっかけは、社員間のコミュニケーションでの気づきだという。

「聴覚障害のあるメンバーと一緒に働く際、聞こえるメンバーが多い場で文字起こしなどを使ってやりとりしているとタイムラグが発生し、伝えたいことが伝わりづらいと感じることがありました。

もっとスームズにたくさん話をしたいのに、できないのがもどかしい。

それならばお互いの言語(手話言語と音声言語)のままでコミュニケーションがとれるツールをつくれないか。そんな思いからSureTalkの開発が始まりました」(技術・事業担当者)

SureTalkはこれまでに複数の自治体や病院の窓口などに置かれ、実証実験が行われてきた。

今回のデフリンピックでは選手が滞在する宿泊施設に設置され、チェックインや問い合わせ対応などに活用されているという。

音声と手話、手話と手話など、言語のあらゆる壁を技術の力で乗り越えていく。そこに、新たなコミュニケーションが生まれ始めていることを体感できた。

スポーツの臨場感溢れる「音」を、振動と光で伝える

デフリンピックの競技で活用されているツールが、富士通が開発した、振動と光によって音の特徴を体で感じるデバイス「Ontenna(オンテナ)」だ。

使い方は簡単で、髪の毛や耳たぶ、服のえり元やそで口などに身に付けるだけ。

60〜90デシベル(通常の会話~大声レベル)の音を256段階の振動と光の強さにリアルタイムで変換し、音のリズムやパターン、大きさを知覚することができる。

スポーツ観戦や音楽ライブなどのイベントでろう者、難聴者、聴者がともに楽しむ未来を目指し開発された「Ontenna」は、子どもでも扱いやすい手のひらサイズで軽いのが特徴。着けているのを忘れるほど快適な装着感で長時間でも違和感なく使うことができそうだ。 スポーツ観戦や音楽ライブなどのイベントでろう者、難聴者、聴者がともに楽しむ未来を目指し開発された「Ontenna」は、子どもでも扱いやすい手のひらサイズで軽いのが特徴。着けているのを忘れるほど快適な装着感で長時間でも違和感なく使うことができそうだ。 撮影:Mashing Up

東京2025デフリンピックでは、11月21日、23日、24日に試合が行われる卓球の会場(東京体育館)にてOntennaの貸し出しが行われる。

デフリンピック会場ならではの生の熱量と最新のデバイスをぜひ体験してみてほしい。

100年の歴史で初となる日本開催

ブースの展示や体験を楽しんでいるうちに、時間はあっという間に過ぎていく。

休憩におすすめなのが「みるTech」の会場の2階にあるスターバックス コーヒーのPOPUP STORE。期間中、数量限定でコーヒーを無料提供している。

スターバックスでは、全国で400名以上の障害のある従業員が個性を活かして働いているというが、このPOPUP STOREには、普段は東京近郊のスターバックス店舗で働く有志のスタッフが接客。手話で簡単なやりとりができる聴者のスタッフや聴覚障害のあるスタッフなどが協力して運営を行っている。

撮影:Mashing Up撮影:Mashing Up

2025年9月に開催され盛り上がりを見せた世界陸上に続き、東京で行われる大規模な国際的スポーツ大会、東京2025デフリンピック。

日本で開催されるのはデフリンピック100年の歴史の中でも初となる、記念すべき大会だ。

画像提供:東京都画像提供:東京都

開催は11月26日まで、誰でも無料で観戦できる。ぜひ会場に足を運んでみてはどうだろうか。

20代は1%以下、平均年齢56歳──東京デフリンピックを裏で支える27歳・手話通訳士の覚悟 | Business Insider Japan

20代は1%以下、平均年齢56歳──東京デフリンピックを裏で支える27歳・手話通訳士の覚悟 | Business Insider Japan