コラム:円は今も安全通貨か、高市政権下で見えた過去との違い

写真は円紙幣と米ドル紙幣。3月19日撮影。REUTERS/Dado Ruvic

[オーランド(米フロリダ州) 19日 ロイター] – 世界的な株安でさまざまな資産クラスの値動きが不安定化している今、安全通貨とされる円が力強く上昇する条件が整っている。ところが実際に円は急落し、動揺した投資家にとっての避難先という、円に長年与えられてきた役割に疑問が投じられつつある。

今週に入って円はドルに対して10カ月ぶりの安値に沈み、対ユーロでは過去最安値を更新。ここ数カ月の値動きはG10通貨で圧倒的な最弱ぶりを見せており、政府・日銀による介入観測が高まっている。

ここで鍵を握っているのは日本国内の問題だ。高市早苗首相はまるでトランプ米大統領の政策を参照するように、大規模な財政出動を打ち出すとともに、物価が高止まりしている中でも中央銀行にできるだけ低金利を維持させようとしている。

だから国際金融市場が神経質になっているにもかかわらず、投資家が急いで円買いに動かないのもうなずける。

これまで円がドル、スイスフランとともに主な安全通貨とみなされてきたのは、巨額の経常黒字保有と数十年にわたる超低金利ないしゼロ金利に由来する。

そうした環境が円キャリートレードを生み出し、日本の投資家は黒字を高利回りの外国資産に転換した結果、日本は長年、世界最大の債権国であり続けた。国際通貨基金(IMF)によると、今年6月末時点で日本が保有していた外国株・債券は差し引きで3兆6200億ドル(約568兆円)だった。

過去の国際金融市場の混乱時には、これらの資産の一部が日本国内に環流しただけでも、急速かつ大規模な円買いにつながった。

しかし足元でそのような現象は起きていない。恐らく市場の動揺がまだそれほど激しくないからか、あるいは使い古された表現だが「今回は状況が異なる」のかもしれない。

<逆風の国内政策>

率直に言えば、高市政権の政策には円にとってのプラス要素が全くない。

高市氏に近い自民党の「責任ある積極財政を推進する議員連盟」は、政府が近く策定する経済対策の裏付けとなる2025年度補正予算案について総額25兆円(1610億ドル)超を確保すべきだと提言した。これは最近浮上していた見積もりよりも多く、前年度の920億ドルよりはるかに規模が大きい。また高市氏は、日銀が利上げしないことが望ましいとの考えも示唆している。

市場は素直に反応し、日本の10年国債利回りは17年ぶりの水準まで跳ね上がり、スワップ市場では日銀が数カ月以内に利上げする確率が急低下した。

スタンダード・チャータードのG10FX戦略責任者を務めるスティーブン・イングランダー氏は、日本国内に起因するマイナスのショックが非常に多い局面では、円の安全通貨としての地位は厳しくなると指摘。「円は実質ベースでも名目ベースでも利回りが非常に低く、これを克服するには多大な時間がかかる」と述べた。

<ドル側の要因>

日銀の金融引き締めプロセスは既にゆっくりかつ漸進的になっている。利上げは今年1月にようやく0.5%にしたのが最後で、実質金利はなお大幅なマイナス圏にある。これはキャリートレードの温床と言える。

為替レートは2つの通貨それぞれの事情が反映されるのが自明の理なので、日銀の利上げ時期が遅れる可能性があるのに加え、米連邦準備理事会(FRB) も利下げを当面見送る様相になってきた状況は、円強気派にとって二重の打撃だ。今年下半期のG10通貨の値動きを見ると、円が最弱で推移してきた半面、ドルは最も上昇している。

米国や世界の市場の混乱が今後数週間でさらに大きくなれば、円キャリートレードの一部が巻き戻され、円の安全通貨としての魅力が復活するケースはあり得る。

とはいえ日本の国内政策が現状のようである以上、今回は円が安全通貨となるのはより難しいのではないだろうか。

(筆者はロイターのコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)

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筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています。

Jamie McGeever

Jamie McGeever has been a financial journalist since 1998, reporting from Brazil, Spain, New York, London, and now back in the US again. His experience and expertise are in global markets, economics, policy, and investment. Jamie’s roles across text and TV have included reporter, editor, and columnist, and he has covered key events and policymakers in several cities around the world.