米投資ファンドによる買収が決定したことにより、アトレチコ・マドリードが新時代を迎えようとしている。
■クラブの会員数は15万人到達
Aマドリードは言わずと知れた、レアル・マドリード、バルセロナに次ぐスペイン第3のビッグクラブ。特に11年冬にシメオネが監督就任して以降、8タイトル獲得、欧州チャンピオンズリーグ準優勝2回の実績を残すなど、創設122年の長い歴史の中、黄金期を過ごしている。
クラブは12年前に会員数6万人突破を大々的に祝ったが、今季は15万人に到達し、SNS総フォロワー数は約9000万人と、その人気はうなぎ登りだ。今季のシーズンチケットホルダーはホームスタジアムのキャパシティーの約90%を占める61304人。ウェイティングリストには7000人以上が登録しており、新規で入手することはほぼ不可能となっている。
人気と比例するかのように金銭面の成長も止まることを知らない。世界的な監査法人デロイトによる世界のサッカークラブ収入ランキングで、14年前は1億2000万ユーロ(約210億円)で20位だったが、今や4億950万ユーロ(約716億6250万円)と3倍以上に増加し、12位と大きく飛躍していることが分かる。
この状況から、今季前半のサラリーキャップ(選手の契約年数に合わせて分割された移籍金や選手年俸などの限度額)が、Rマドリード、バルセロナの次に多い3億2698万9000ユーロ(約572億2307万5000円)となっていることも納得できる。
■メンバー3分の1入れ替え実施
今季のAマドリードは、5季ぶり通算12度目の優勝を目指すべく、1億7800万ユーロ(約311億5000万円)を投資して、メンバーの3分の1を入れ替える大改革を実施した。この金額はトップのRマドリードとほぼ同額で2番目に多い金額となった。
補強したのは、4200万ユーロ(約73億5000万円)で加入したスペイン代表MFバエナを筆頭に、アルゼンチン代表MFアルマダ、FWニコラス・ゴンサレス、イタリア代表DFルッジェーリ、FWラスパドーリ、アメリカ代表MFカルドーゾ、スロバキア代表DFハンツコ、U-21スペイン代表DFプビルの8人。
クラブはシーズン開幕にあたりホームスタジアムにサポーターを集め、大規模な入団セレモニーを実施。今季にかけるクラブの意気込みを感じさせるこの出来事に、サポーターは今年こそと期待した。
■5節終了時12位も現在は4位へ
シメオネ監督は4-4-2をベースに、新戦力を多数レギュラーに据えてシーズンを開始する。しかし、ハードワーク、高いインテンシティー、堅固な守備などを信条とする“チョリスモ(シメオネ監督のサッカー哲学)”を理解するのに時間を要し、うまく機能しなかった。さらに、けが人の続出や決定力不足、不安定な守備も重なり、スペインリーグは第5節終了時点でわずか1勝しか挙げられず、12位まで落ち込んでいた。
この状況を改善すべく、シメオネ監督が昨季も所属していた選手を重用しだしたことで、事態が好転していく。第7節のマドリードダービーでは新戦力をわずか2人しか先発起用しなかったが、今季最高のパフォーマンスでライバルのRマドリードを5-2で粉砕した。
その後、アウェーでアーセナルに0-4で大敗したことが尾を引くと思われたが、意気消沈することなく公式戦4連勝を達成した。リーグ戦で4位にまで浮上し、年内最後の代表ウィークを迎えている。
■アルゼンチン人ホットラインが武器
復調の大きな要因として、前線の選手たちが輝きを取り戻したことが挙げられる。中でもフリアン・アルバレス(公式戦15試合9得点4アシスト)は絶対的なエースとして君臨し、監督の三男ジュリアーノ・シメオネ(公式戦16試合3得点5アシスト)は右サイドで爆発力を発揮している。アルゼンチン代表でも共にプレーする2人のホットラインは、今季の大きな武器である。
すでに代表を引退している34歳のベテラン、グリーズマンが控え選手としての役割を受け入れ、ベストパフォーマンスを披露していることも大きい。一度もけがすることなく公式戦全16試合に出場し、先発はわずか7試合だが、5得点1アシストを記録している。
ル・ノルマン(今月は負傷欠場)、ジョレンテ、バリオス、バエナが、11年ぶりにFIFAランキング首位に返り咲いたスペイン代表に招集されたことも、チームの好調さを物語っている。
ようやく勢いを取り戻したチームの懸念材料と言えば、ホームで9勝(スペインリーグは20チーム最多の7勝)挙げているのに対し、アウェーでわずか1勝と、内弁慶ぶりが顕著であることだろう。それが欧州チャンピオンズリーグの1次リーグで17位に低迷する原因になっている。これは、一部の選手を除いてまだ本領発揮できていない新戦力が、シメオネ監督のサッカーにフィットして解決することを期待したい。
■スタジアム隣接の練習施設も
そんな中、戦力アップが期待される出来事が発表された。Aマドリードは11月10日、9080億ドル(約140兆円)の資産を運用するアメリカの投資ファンド、アポロ・グローバル・マネジメントの子会社であるアポロ・スポーツ・キャピタルが筆頭株主になることで合意した。今後数カ月以内に正式契約されることになる。
アポロ・グローバル・マネジメントは複数のクラブを所有するつもりはなく、Aマドリードに集中し、長期計画を支援する投資を行う予定だ。その中にはホームスタジアムに隣接する新たなトレーニング施設の建設が含まれており、補強にも大きな影響を及ぼすことになるだろう。一方、首脳陣に変化はなく、エンリケ・セレッソ会長とミゲル・アンヘル・ヒル・マリンCEOは引き続き現在の職を務め、クラブを率いていく。
新たな資金注入によりさらなる飛躍が見込まれるAマドリードは今後、欧州サッカー界でその地位を高めていくことが大いに期待される。Rマドリードやバルセロナと激しい優勝争いを繰り広げることができれば、スペインリーグはより魅力的なものになっていくだろう。【高橋智行】(ニッカンスポーツコム/サッカーコラム「スペイン発サッカー紀行」)
