10月4日、明治安田J1リーグ第33節「浦和レッズ対ヴィッセル神戸」の試合日に、浦和レッズが小学生向けの走り方教室を開いた。浦和レッズのホームゲームでは、さいたま市を中心にサッカーを通じて子どもたちの心を育む活動を展開する「浦和レッズハートフルクラブ」によるサッカー教室を行うことが多いが、サッカーではなく陸上競技の分野である走り方の教室を開催するのは初めての試みだった。

講師は今年から「レッズ・ブランドアンバサダー」に就任した“野人”こと岡野雅行氏と、2008年北京五輪男子4×100メートルリレー銀メダリストの塚原直貴氏という豪華な顔ぶれ。箱根駅伝ランナーの三田翔平氏や城西大学陸上競技部部員、「レッズランドランニングスクール」の尾池望コーチも加わり、子どもたちに速く走れるようになるための基礎トレーニングやコツを伝授した。

会場となった埼玉スタジアム第3グラウンドには998人の応募者の中から抽選で選ばれた小学生(1~3年生)140人と保護者が来場。9月にあった世界陸上の余韻もまだ残っており、参加している子どもたちも見守る親御さんたちも熱気にあふれていた。

ウォーミングアップではまずリズム体操を行い、体が温まったところで本番のトレーニングをスタート。子どもたちは塚原氏直伝の万歳スキップや、手と足のリズムが異なる難しい動きに四苦八苦しながらも真剣な表情で取り組んでいた。

また、城西大学陸上部の中距離選手が子どもたちのすぐ目の前をフルスピードで駆け抜けるデモンストレーション・ランを行うと、速さやフォームの美しさ、風を切る迫力に「うわー」と圧倒され、大喜びする様子も見受けられた。

準備運動のときは小雨がぱらついていたが子どもたちは伸び伸びと体を動かし、コーチのお手本を真似てジャンプしていた(撮影:矢内由美子)準備運動のときは小雨がぱらついていたが子どもたちは伸び伸びと体を動かし、コーチのお手本を真似てジャンプしていた(撮影:矢内由美子)■浦和レッズ白川マーケティング本部長「サッカーや浦和レッズに興味を持っていない人たちとの接点を」

浦和レッズはなぜ「かけっこ教室」を開いたのか。狙いを浦和レッズマーケティング本部の白川潤本部長に聞くと、「クラブとして、サッカーや浦和レッズに興味を持っていない人たちとの接点をつくることを課題として持っています」と言い、このように続けた。

「その中で岡野さんが開いている『野人塾かけっこ教室』は、幅広く子どもたちと接点を持つのにはとても良い企画だと思いました。なぜなら子どもなら誰でも運動会があるし、どのスポーツをやっていても走ることは重要だからです。そう思って長年ウォッチしていたところ、今年から岡野さんが浦和レッズのブランドアンバサダーに就任したので、ぜひやってみましょうということになり、時期は運動会シーズンの直前が良いと思って(10月4日に)設定しました。」

岡野氏は現役時代、その圧倒的なスピードを武器として活躍し、日本代表として出た1997年11月のフランスW杯アジア最終予選プレーオフvsイラン戦で延長Vゴールを決めて日本を史上初のW杯出場へ導き、W杯フランス大会に出場。現役引退後、ガイナーレ鳥取のGMを務めていた9年前から自身が塾長、メインコーチが塚原氏というタッグで「野人塾かけっこ教室」を各地で開催してきた。そして、このほど機が訪れ、浦和レッズで「かけっこ教室」を開くことになったのだ。

塚原直貴氏(左)と岡野雅行氏。チーム対抗リレーでは2人とも人数の関係で2本ずつ走るハッスルぶりだった(撮影:矢内由美子)塚原直貴氏(左)と岡野雅行氏。チーム対抗リレーでは2人とも人数の関係で2本ずつ走るハッスルぶりだった(撮影:矢内由美子)■岡野氏「まさかここでやる日が来るとは」 塚原氏「良い相乗効果に」

イベント後、岡野氏に感想を求めるとこのように語った。

「野人塾かけっこ教室はオリンピック銀メダリストの塚原くんと9年やっていますが、まさかここ(埼玉スタジアム第3グラウンド)でやる日が来るとは思いませんでしたし、しかも浦和レッズの主催でできたのは感慨深いです」

浦和レッズのブランドアンバサダーとしての立場からは「雨でもこんなにいっぱい来てくれた」と参加者に感謝する。そして、「一緒にかけっこをして、その後に試合を観戦するのもすごくいいと思うし、かけっこ教室をきっかけに(埼スタに)初めて来た子が将来サッカー選手になってくれたらたら嬉しいし、いろんな意味で良かった」と幅広い波及効果を期待していた。

陸上の専門家である塚原氏は「レッズさんの試合の前にこのイベントをできたのは本当に光栄なことだし、参加者にイベント参加のために来てもらうだけではなく、かけっこ教室の後に試合で応援してもらうことで良い相乗効果となったのではないかと思う」と率直な感想を語ったうえで、このように続けた。

「『走り』というものは陸上競技だけではなく、様々なスポーツで戦術・戦略の一つとなり武器となる、非常に大事なものだと思っています」

クライマックスのチーム対抗炉レー。子どもたちが全力疾走で競い合った(撮影:矢内由美子)クライマックスのチーム対抗炉レー。子どもたちが全力疾走で競い合った(撮影:矢内由美子)■「サッカーはやっていないけど」…“かけっこ教室”がもつポテンシャル 

「かけっこ教室」ではクライマックスとなる最後のメニューでチーム対抗リレーを行った。子どもたちは岡野氏や塚原氏たちで構成する大人チームと競い、真剣な表情で芝の上を駆け抜けていた。一方で、バトンの受け渡しが上手くいかず落としてしまう子どもも少なくなく、フルスピードで走りながらのバトンパスがいかに難しいかを実感するなど、実践で気づくことも多かった。

参加した女子小学生の保護者は、「うちの子どもはサッカーはやっていないのですが、運動会が近いので速く走れるのは良いと思って応募しました」と話しており、サッカー教室にも行っているという男子小学生は「足が速くなりたいので、きょうはすごく楽しかったです」と話していた。かけっこ教室が終わると、参加した子どもたちは保護者と一緒に「浦和レッズ対ヴィッセル神戸」の試合観戦を楽しんだ。

浦和レッズ浦和レッズ(写真:西村尚己/アフロスポーツ)■将来的に浦和レッズのファン・サポーターへ

新規のファン・サポーター獲得は浦和レッズに限らずすべてのプロスポーツ団体が共通して持っている課題でもある。岡野氏は「かけっこ教室を開くことで、レッズがいろいろなイベントをしていることを知ってもらえると良いし、やはり、こういうのはやらないといけないと思う。そういう意味で、今日はいいきっかけになったのかなと思う」と言う。

また、浦和レッズが思い描いている先々のことについて、白川氏はこのように説明する。

「子どもの頃に浦和レッズにこうして触れてもらうことで、気がついたらこれが良い思い出になっていて、将来的に浦和レッズのファン・サポーターになってもらえる可能性が高くなります。小学生年代に合うイベントを探すのは簡単ではないのですが、かけっこ教室はちょうど良いイベント。こうして毎年一定数の小学生年代の子どもたちと接点を持てば、10年後、20年後にはかなりの総数になっていくと思うので、今後もこのような取り組みを積み重ねていきたいと思っています」

シンプルで汎用性が高い「かけっこ教室」は大盛況のうちに終わった。未来を開拓するための浦和レッズの挑戦はまだまだ続いていく。