
近年、欧米の金融業界で再編・統合の動きが加速している。写真はマドリードの金融街の上に見えるスーパームーン。2013年6月撮影(2025年 ロイター/Paul Hanna)
[東京 15日] – 近年、欧米の金融業界で再編・統合の動きが加速している。欧州では、今年9月にスペイン大手銀行バンコ・ビルバオ・ビスカヤ・アルヘンタリア銀行(BBVA)によるサバデル銀行の株式取得手続きが始まり、来年初頭までに最大40件の銀行再編が発表される可能性が指摘されている。米国でも、地域銀行を中心に再編の動きが活発化している。背景には何があるのか。
<欧州:分断を超えた大陸統合の模索>
先月から始まったスペインでのBBVAによるサバデル銀行の敵対的買収の手続きは、10月14日に結果が明らかになった。敵対的買収に反発する株主が多く、目標としていた50%以上の株式の取得には至らない公算が高まったものの、BBVAは以前から様々なM&Aに積極的であり、このままで終わらない可能性もあるだろう。
この買収については、昨年来、スペイン政府と欧州委員会の対立が続いていた。スペイン政府がサバデル銀行の独立性の維持を条件としたのに対し、欧州委員会は域内の資本移動の自由を理念とする欧州の原則に違反するとし、スペイン政府が過度の介入を行ったとして提訴した。
欧州では、国家主権と欧州連合(EU)一体化のはざまで摩擦が生じている。昨年のウニクレディトによるコメルツ銀行出資の際にも、同様の対立構図が見られた。こうした混乱を受け、欧州委員会は、20年以上ぶりに企業統合ルールの見直しに着手した。
<米国:地銀のM&Aが急増>
米国でも地域銀行を中心に再編の動きが活発化している。今年5月には、大手地銀のキャピタルワンによるカード会社ディスカバー・ファイナンシャル社の買収が成立した。350億ドル規模の統合により、全米第6位の銀行であり、同時に全米最大のクレジットカード発行会社が誕生した。9月にはPNCによるファーストバンクの買収が、今月には、フィフス・サード銀行によるコメリカ銀行の買収が発表された。この第3・四半期だけで米地銀の再編は52件に上り、過去数年で最高となった。
米国の銀行数は過去40年間で約4分の1に減少しており、規模の経済を活かした収益性強化が進んでいる。JPモルガンの時価総額はユーロ圏最大行の約5.6倍に達し、10年前(約3.4倍)から格差はさらに拡大した。米銀の巨大化は、金融危機後の健全化政策とテクノロジー投資の成果でもある。
<統合活発化の背景>
欧米同時に銀行のM&Aが活発化している背景としては、いうまでもなく人工知能(AI)・IT投資の必要性が大きい。投資には規模のメリットが不可欠だからだ。特に欧州の銀行は、米国の銀行の成長に懸念を示している。
これに加えて、ノンバンク金融仲介機関(NBFI)による銀行収益モデルの浸食も深刻化している。金融安定理事会(FSB)の推計によれば、NBFIの保有資産は過去10年で倍増し、従来の銀行モデルが浸食されつつある。さらに、若年層や次世代富裕層が伝統的銀行サービスから離れつつある点も無視できない。キャップジェミニの6月の調査によると、米国の次世代富裕層の81%が「親世代とは異なる資産アドバイザーを選ぶ」と回答しており、顧客基盤の変化も再編を促す要因となっている。既存の銀行等では、彼らが志向するオルタナティブ投資や暗号資産等に精通しておらず、また対応のデジタル化が遅いとしている。
<日本:笛吹けど踊らず>
一方、日本の銀行業界はどうか。9月末には、千葉銀行と千葉興業銀行の経営統合が発表され、来年以降、八十二銀行と長野銀行の合併や、群馬銀行と第四北越フィナンシャルグループの統合も予定されている。
決して動いていないわけではないが、欧米の動きをみるとダイナミズムに欠ける印象が否めない。過去10年間でみると、米国の銀行数は約3割減少しているのに対し、邦銀の数はわずか6%しか減少していない。その結果、1行あたりの当期利益(インフレ調整後)の伸び率も低く、過去10年で日本は33%増にとどまる一方、米国は2倍に達した。
しかも日本では、金融庁が21年に地方銀行の再編に対する交付金制度を設立し、再編を促している。今月にも、来年3月に期限を迎えるこの支援制度を5年間延長し、上限金額も30億円から50億円に引き上げる方針を固めたと報じられた。それでもこのペースであり、かつ、再編の多くは持ち株会社の下で銀行を残すケース、あるいは、銀行の上に持ち株会社を設立するなど、スケールメリットやコストシナジーを得にくいものも多い。欧米のような積極的なスケールアップ型再編とは性格を異にしている。
最近は政策金利の引き上げ期待を背景に、邦銀株は堅調に推移している。しかし、これは一時的な外的要因によるものであり、根本的な構造改革には至っていない。地域銀行の預金や顧客の減少懸念は今後本格化する。顧客の高齢化により、相続時に大都市への預金シフトが進む。独自の経済圏を持つネット銀行の台頭も大きな脅威になりうる。
欧州は政治的統合の制約の中で「越境的再編」という難題に挑み、米国はスケールメリットの追求のため急速な再編に乗り出している。対して日本は、制度的支援が整えられてもなお、自らの変革への意思が問われている。果たして、我が国の銀行システムはテクノロジーの進化や社会構造の変容に耐えうる体制を備えているだろうか。
銀行が弱体化すれば、次なる金融ショックの際に資金の循環が滞り、経済全体の回復力を著しく損なうおそれがある。金融システムは、経済の基盤そのものを支える公共財であり、再編や統合を通じた進化は、選択ではなく不可避の要請である。その覚悟を欠けば、日本の金融は緩やかな後退の中で自らの存在意義を失いかねない。
編集:宗えりか
*本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています。
*大槻奈那氏は、ピクテ・ジャパンのシニア・フェロー。東京大学卒業、ロンドン・ビジネス・スクールでMBA、一橋大学ICSで博士(経営学)。スタンダード&プアーズ、UBS、メリルリンチ、マネックス証券などでアナリスト業務に従事。2022年9月より現職。名古屋商科大学大学院教授を兼務。
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