個々の違いを受け入れ、多様性を認められる社会であることは、様々なシーンやジャンルにおいても、欠かせない課題といえる。アート、ニューロダイバーシティから、性的マイノリティが抱える孤独、性教育まで、それぞれの領域を先導する8人が4つのカテゴリーで、ふくよかな世界を実現するために語り合った。
今回は、臨床心理士の村中直人さんと、俳優でお笑い芸人の鳥居みゆきさんの対談をお届けする。
Naoto Muranaka むらなか・なおと
臨床心理士、公認心理師。一般社会団法人 子ども・青少年育成支援協会の代表理事。2008年から多様なニーズのある子どもたちが学び方を身につけるための学習支援事業「あすはな先生」の立ち上げと運営に携わり、「発達障害サポーター’sスクール」での支援者育成にも尽力。著書多数。
Miyuki Torii とりい・みゆき
お笑い芸人・俳優。独特の芸風で注目を集め、2008年、2009年の『R-1ぐらんぷり』では決勝に進出。ドラマや映画でも活躍し、現在はNHK Eテレの『でこぼこポン!』に出演中。著書に『やねの上の乳歯ちゃん』(文響社)、『夜にはずっと深い夜を』(幻冬舎)などがある。
人間の脳って、思っているよりそれぞれ違うんです。──村中
近年、「発達障害」という言葉を聞く機会が増えている。医学的な診断名は「広汎性発達障害」であり、脳や神経の発達に関する障害とされている。これを「優劣や能力の欠如」ではなく、「ニューロダイバーシティ(脳や神経に由来する個人レベルでの特性の違い)」と考えるべきではないかと提唱しているのが、臨床心理士の村中直人さん。発達障害に関する2つの資格を取得したお笑い芸人の鳥居みゆきさんとの対話から見えてきた、みんなが生きやすいインクルーシブな社会とは。
村中さんの代表的な著書。『〈叱る依存〉がとまらない』(紀伊國屋書店)、『ニューロダイバーシティの教科書 多様性尊重社会へのキーワード』(金子書房)、『ラーニングダイバーシティの夜明け 多様な学びを選択できる教育のために』(日本評論社)。
村中:15年ほど前から、臨床心理士の仲間と共に学習に困難を抱える子どもたちの学習支援に取り組んでいます。そのなかには、自閉スペクトラム症(ASD)や注意欠如多動症(ADHD)、限局性学習症(SLD)など発達障害圏の子どもたちも多く在籍しています。その過程でニューロダイバーシティという概念に出合い、「これだ!」とピンときまして。著書や講演などを通じて発信するようになりました。
鳥居:私は仕事をきっかけに、児童発達支援士と発達障害コミュニケーションサポーターという2つの資格を取りましたが、ニューロダイバーシティという言葉は知りませんでした。最初はビジネス用語の一種かと思いましたが、ニューロが脳、ダイバーシティが多様性ってことなんですね。
村中:もとは、自閉スペクトラム症(当時は、高機能自閉症やアスペルガー症候群と呼ばれていた)の大人たちが、インターネットで出会って生み出した言葉です。今まで孤独だったけど、似た人たちと集まることができて、「いつも理解されなくて大変だよね」とわかりあえた。そして気づいたんですね。「私たちは共感能力が欠如した障害者だと言われてきたけれど、ここでは互いに共感しているし、コミュニケーションもできている。私たちは社会性の障害者ではなく、社会の“普通”に抑圧されてきただけではないか?」と。それでこういった気付きを社会に知ってもらおうと、権利擁護の活動を始めたわけです。
鳥居:自分だけじゃないって思えたら心強いですよね。そこから言葉が生まれたんですか?
村中:発想の由来は、生物多様性です。当時「多種多様な生物が存在し、お互いに影響しあいながら生態系は形成されているものなのに、今、生物多様性が失われつつある」ということが話題だったんですね。ならば、「人間の脳の多様性だって、尊重されてもいいんじゃないか」と。
鳥居:なにか対義語から派生したわけではないんですね。

村中:対義語はニューロユニバーサリティですね。人間の脳は似てるはずだよねという意味。ニューロダイバーシティは、人間の脳って思っているより一人一人違うよね、っていう考え方。
鳥居:この言葉を、“普通”な人たちが使っていたら理想ですね。
村中:うーん、この言葉ができてから25年以上経つ今、意味がゆがんで伝わっていることも多いんですよ。日本では「発達障害の人たちの仕事を支援しましょう」という意味合いに限定されて使われることが多いのが現状です。
鳥居:なんでだろう。
村中:IT(情報技術)の大手企業で自閉症の人たちを特別なやり方で雇ったら莫大な利益を生んでくれた、という海外の事例がいくつかあって、それが日本のビジネスシーンで紹介されることが多いからでしょうね。
鳥居:それって「左利きの人は天才」って言われるような感じ。親戚の子が自閉症なんですけど、その子の親は、自閉症の人がなにかと才能があるって思われてるのがいやだって言ってます。一概には言えないものだって。
村中:おっしゃるとおり。平均値をとったら自閉症の人のほうがITが得意な人は多いかもしれませんが、もちろん苦手な人もいますよね。「自閉症=ITが得意」はニューロユニバーサリティな考え方です。
鳥居:「発達障害ならなにかが秀でてるんでしょ」って言われても、人によって違う。それまで、どんなチャレンジをしてきたかにもよるでしょうし。「忘れ物多いんでしょ」「時間守れないんでしょ」と言われることも多いけど、それも人によりますよね。
村中:人の得意不得意は、環境が変わると入れ替わることも多々あります。
鳥居:私は発達障害をサポートする資格を取りましたが、コミュニケーションが得意になったわけじゃない。だれか私をサポートしてほしい(笑)。
村中:コミュニケーション能力なんていう独立した能力は存在しないんですよ。誰とでも波風を立てない人をそう呼ぶことが多いけど、そんな人を例えば専門的な議論の場につれて行ったら、うまくコミュニケーションがとれるかはわかりません。つまり、得意不得意っていうことは、状況や環境を抜きにしては言えないことなのです。
