第一生命経済研レポート

2025.07.22


欧州経済

欧州経済全般


内外経済ウォッチ『欧州~各地で記録的な熱波~』(2025年8月号)



田中 理



目次






欧州を熱波が襲っている。スペイン、ポルトガル、フランス南部などで連日40℃を超える猛烈な暑さが続いており、スペイン南部のエル・グラナドやポルトガルのリスボン近郊のモーラなどの町では、6月下旬に46℃前後まで気温が上昇し、6月の観測史上で過去最高を記録した。近年、世界各地で異常気象が頻発し、地球温暖化の進行が懸念される。今回の熱波は、欧州上空に強力な高気圧が居座り、この高気圧が鍋の蓋のように働くことで、強い日射で蓄積された熱や北アフリカからの乾燥した空気を地表近くに閉じ込める「ヒートドーム現象」が発生したことが原因とみられる。

欧州の大手保険会社は最近、熱波の影響で、2025年の欧州の実質国内総生産(GDP)が▲0.5%ポイント押し下げられるとの試算結果を発表した。気温上昇が著しく、農業や観光依存度が高いスペイン(▲1.4%ポイント)、イタリア(▲1.0%ポイント)、ギリシャ(▲1.0%ポイント)の落ち込みがとりわけ大きくなると警鐘を発する。熱中症や関連疾患による健康被害に加えて、①高温や干ばつによる農作物の収量減少、家畜の死亡率上昇、食料品価格の高騰、②猛暑で夏場の観光客の足が遠退くことに伴う観光収入の減少、③冷房需要による光熱費負担の増加や電力供給の不安定化、④高温による屋外作業者の労働生産性低下、などの悪影響が懸念されている。

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影響は南欧諸国にとどまらない。猛暑による渇水が続くドイツではライン川の水位低下が著しい。スイスの山岳地帯からドイツ西部を抜け、欧州最大の港があるオランダのロッテルダム近郊で北海に注ぐライン川は、ドイツの工業生産や海上輸送を支える大動脈だ。流域には多くの日本企業が集まるデュッセルドルフなどドイツを代表する商業都市、化学や鉄鋼などの工業関連施設、火力発電所などが立ち並ぶ。中流にあるラインラント=プファルツ州のカウプ周辺の水位は、7月6日時点で99センチまで低下している。

一般に、カウプ周辺の水位が75センチを切ると大型船の荷物の積載量が制限され、40センチを切ると就航が難しくなるとされる。2018年には一時、20センチ台まで水位が低下し、周辺にある化学関連施設が操業を停止し、化学製品の生産や出荷が大幅に落ち込んだ。この時や2022年の水位低下時には、部分的に貨物船の積載制限や就航制限が行われたが、7月初旬時点の水位としては当時を下回っている。既に一部の地域で貨物船の積み荷を通常の40~50%程度に減らしており、物流コストが上昇している。例年、夏から秋にかけては水位が一段と低下しやすい。今後も熱波や降雨不足が続けば、更なる物流障害や経済的損失が広がる恐れがある。財政拡張で景気浮揚への期待が高まるドイツ経済が足元をすくわれかねない。

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田中 理