
8月13日、制裁解除はロシアのプーチン大統領に差し出す「アメ」としては物足りないだろう。写真は2019年6月、大阪で撮影(2025年 ロイター/Kevin Lamarque)
[ロンドン 13日 ロイター BREAKINGVIEWS] – 制裁解除はロシアのプーチン大統領に差し出す「アメ」としては物足りないだろう。15日に米アラスカ州でプーチン氏と会談するトランプ米大統領は、ロシアの銀行や企業に対する制裁撤廃を提案し、ウクライナでの停戦を受け入れさせようとする可能性がある。しかし、米国に足並みをそろえて欧州も制裁解除に動かない限りプーチン氏が得られる見返りは大きくならないため、トランプ氏はむしろ「ムチ」に力点を置く必要があるのではないか。
表面上は、プーチン氏にとって制裁緩和がもたらすメリットは多大だ。欧米がロシアの西側市場へのアクセスを制限し、化石燃料輸出収入も抑え込んだことで、ロシア経済は停滞。2022年の制裁を受け、ロシアは景気後退に陥ったほか、欧州向けエネルギー販売は急落し、国内の一部銀行は国際決済システムから閉め出された。ロシアの大手銀行VTB(VTBR.MM), opens new tab は純金利収入が劇的に落ち込んだ。
Line chart showing Russian GDP growth data
そうした悲惨な状況にもかかわらず、プーチン氏は踏ん張り続けている。国際通貨基金(IMF)の予測では、向こう3年間のロシアの国内総生産(GDP)成長率は1%前後。新型コロナウイルス禍前の半分に過ぎないものの、経済の崩壊とは程遠い。ロシアが持ちこたえている重要な要因の1つは、特に石油と天然ガスについてプーチン氏が輸出先を切り替えられたことだ。2024年の欧州のロシア産天然ガス輸入量は21年の約3分の1に落ち込んだ一方、ロシアの化石燃料輸出収入はそれほど減っておらず、今年7月時点の1日当たりの収入は22年比で50%弱の減少にとどまった。欧米の制裁発動後は、ロシアが輸出した石油の47%をインドが、38%を中国がそれぞれ購入している。
さらに、トランプ氏は制裁解除を通じてロシアに救済効果の一部しか提供できない。欧州はロシアからのエネルギー輸入を27年までにゼロとする目標を掲げている以上、突然ロシア産の石油・ガス購入を大きく増やす可能性は低い。また、加盟国の中にロシアの侵攻を恐れるポーランドなどが存在するEUとしては、プーチン政権の軍事力強化に手を貸す行動には消極的になるだろう。EUがロシアの銀行に国際銀行間通信協会(SWIFT)へのアクセス復活を認めたり、ロシア中央銀行の資産凍結を解除したりすることに同意しそうにもない。
したがって、トランプ氏がウクライナ停戦に賭けるとすれば、制裁強化を示唆することこそが最善の手と言える。これはロシアが石油輸出に制裁逃れのために利用している「影の船団」の締め付けや、ロシア産化石燃料を購入する国への制裁や関税引き上げを意味する。
ところがトランプ氏は、そのような措置に乗り気ではない。インドに対するロシア産原油購入を理由とする関税引き上げは25%にとどまり、中国とも貿易協定を結びたい気持ちがあるため、中国のロシア支援姿勢を後退させる取り組みが難しくなっている。オックスフォード・エコノミクスによると、インドと中国に幅広い制裁を科せば、石油価格は最高で1バレル=90ドルへ跳ね上がる恐れがあり、米国の消費者を守りたいというトランプ氏の願いとも矛盾してしまう。
つまりプーチン氏の立場では、とりわけ戦況が自らの有利な方向に展開していると考えている限り、15日のトランプ氏との会談で大幅に譲歩すべき理由は乏しい。トランプ氏が貧弱なカードしか切れないとすれば、戦闘はより長期化してもおかしくない。
●背景となるニュース*トランプ米大統領とロシアのプーチン大統領は15日に米西部アラスカ州で首脳会談を実施し、ウクライナ問題について協議する。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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